「徹底的な介護」が本当に必要なのか

内閣府の意識調査に答えた人たちも基本的には元気な人たちだ。実際には「家族などに迷惑をかけたくないから、『病院』や『施設』で最期を迎えたい」と考える人も少なくないだろう。結城氏も「日本人はまだ看取りについて自己決定しようという意識が弱い」と話す。

「欧米では看取りの自己決定が確立されつつあります。一方で、日本の介護現場ではまだ無駄な医療的ケアが提供される事例も少なくない。高齢者本人の『生活の質』が軽視され、介護者の論理で『胃瘻』などの医療的ケアが決められてしまう。どうしても必要なケースもありますが、介護環境を整えれば『経口食』で看取ることもできるのです」

日本では「健康寿命」と「平均寿命」の差が拡がりつつある。医療の発達で平均寿命は延びているが、それ以上に「要介護」の期間も延びているのだ(図3)。結城氏は「どの時点、どの症状で人の『命』は臨終と考えるべきかを、人の『生活の質』を踏まえながら、社会として考えていくべき」と話す。

「今後、都市部での介護施設不足を解消できる見込みはありません。平均で2~3年待ちという特別養護老人ホームに『運』で入所できるか。または高額な有料老人ホームに入れる『カネ』があるか。徹底的に介護を受けるにはそれしかないでしょう。

しかし、そうした介護が『生活の質』を高めるものかどうか。家族や本人の文書などの意思表示があれば、過度な延命治療は避けられます。誰も意思表示しなければ、延々と介護生活が続く。施設に入れなければ、介護は家族の負担にもなる。生前から家族会議などを通じて、自分の意思を明確にしておくことが重要です」

淑徳大学 教授 結城康博(ゆうき・やすひろ)

1969年生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒業。法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。社会福祉士、介護福祉士、ケアマネジャー。近著は『在宅介護』(岩波新書)。
 
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