ブランドは「誰から買うか」が大切

ジュエリーは「何を買うかではなく、誰から買うかが重要だ」と言われます。富裕層の邸宅を彩る家具も、そうした一面があるのかもしれません。

「今から考えると私も強引なんですが、『この人がもし弊社に入ってくれたら、今ある問題をすべて解決できる!』とひらめいたんです」

直接話す機会など、もうないかもしれない。あったとしても、タイミングを逃すかもしれない。当初はアドバイスや人脈作りのきっかけとしてアポイントをとったのですが、ここからが守次社長の度胸と素早い判断を称賛したいところです。なんと、話している途中で、国際部長を自社の国際部門の責任者に引き抜こうと決め、口説いたのですから。

「意識的に少し大げさに、弊社とMATSUOKAというブランドについて説明して、うちに来てくれ、と何度も何度も言いました。約束は1時間の予定で朝の10時に会ったんです。それが2時間延びて昼になり、このまま昼ご飯を一緒に食べようということになり、それでも話し足りなくて、続けてさらにお茶を飲み、結局、夕方の4時か5時頃まで語り合いました」

思いがけず、乗り気を見せた国際部長を日本に一度呼ぶために、すぐに帰国して準備をし、1週間後には日本に招待して工場やショールームを見せたというから驚きです。鉄は熱いうちに打て、を地で行く行動力。守次社長は「アメリカで本気で売りたい」と熱く語り、最終的に、本来、高額な契約金が必要な彼を破格の条件で口説き落としました。

海外でセレブに支持されるブランドとして認知されるには、そのための仕掛けや、人と人のつながりが非常に大切になる。

アメリカ家具業界の大物を口説き落とす

ここがステップアップのキーポイントだったのだと思います。ちょうどこの時期に、ベイカーに近い将来にデザイナーとして採用される予定だった一流デザイナーのクリスチャン氏も合流します。ベイカーという一流企業を断って最終的にクリスチャン氏がMATSUOKAに合流した理由は、本気で世界に打って出る気がある会社で、自分のデザインを完璧に仕上げる技術と柔軟な姿勢を持っていると理解したからです。特に後者の条件は、アーティストでもあるデザイナーにとって魅力的な条件なのです。

現在、MATSUOKAの国際部門の責任者はベイカー社の元社長であるクリス氏が就任しています。クリス氏がベイカー社を去るとき、彼がMATSUOKAを評価していると聞いた守次社長がクリス氏にコンタクトを取り、いろいろと話をしたそうです。そこで同じ目線でビジネスができると感じた社長は、クリス氏をMATSUOKAに誘い、クリス氏は快諾します。こうしてベイカーの元国際部長よりもさらに格上の元社長であるクリス氏の参画が決まったのだそうです。

その後、MATSUOKAは商品の展示を世界最大級の家具展示会が開かれるノースカロライナ州ハイポイントに移し、さらに今年からニューヨークの権威あるショールーム、D&Dに商品が置かれるようになりました。まさに快挙です。

「クリスチャンはデザイナーとして才能があるだけでなく、人柄もとてもチャーミング。彼が接客すると購買率が跳ね上がりました」

ブランドがブランドとして認知されるようになるには、このような仕掛けや人と人とのつながりが功を奏して、その企業、そのブランド固有の物語が作られていくのです。