「危ない!」

仙台本店の2階は、天井が落ちたまま。修理には手がつけられていない。1台あるパソコンを使って、この2階からテレビオークションに参加する。関東では品薄のため、関西からも仕入れる。
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仙台本店の2階は、天井が落ちたまま。修理には手がつけられていない。1台あるパソコンを使って、この2階からテレビオークションに参加する。関東では品薄のため、関西からも仕入れる。

間一髪だった。誰かの叫び声とともに、天井が崩落したのだ。揺れがいつまでも継続したため、店長の若松光浩が商談していた2人の客を、ショールームから外に誘導し終えたまさにそのときでもあった。

中央に展示していたスズキ「スプラッシュ」の新車は、崩落の直撃を受けた。ショールームには一瞬にして瓦礫の山が出来上がり、その高さは大人が埋まるほどだった。

中古車ディーラーであり、スズキの有力な販売店でもある若松自動車商会の仙台本店は、宮城野区にある。

埃が舞い上がり、店は停電となった。

「ほかの店は無事だろうか。社員全員の安否を確認しなければ……」

若松は、外に展示していた中古車のドアを開き、車載テレビのスイッチを入れる。地震情報とともに、どの局も津波警報を伝えていた。「各店舗に連絡し、社員の安否確認を急げ!」。腕時計に目を落とすと、午後3時より少し前だった。

「仙台空港に、ただいま津波が押し寄せています!」

震度を知ろうとしてつけたトランジスタラジオから流れたニュースに、空港近くに住む鈴木圭一は全身が震えた。

次の瞬間である。小学3年生だった孫の諒太朗が大声で走り込んできた。

「じいちゃん、水、来たよ!」

東の方向を見やると、確かに津波だった。75歳の鈴木には横一列の“黒い壁”に見えた。黒い壁は海岸線の松林、自動車、家屋までをも呑み込みながら、みるみると迫ってくる。

鈴木は諒太朗と、長男の嫁、すなわち諒太朗の母親とともに2階に駆け上がる。2階の和室には、鈴木の妻が床で休んでいる。長男一家は、すぐ近くに住んでいた。長男は若松自動車の顧客でもあり、若松とは親しい間柄だ。

地震発生直後、長男の嫁と諒太朗は避難所である小学校に避難する。しかし、鈴木たち夫婦がなかなか来ないため、車で迎えに戻ったのである。運悪くそこに津波が押し寄せたのだった。