金持ちだからこそ存在意義がある

ならば、トランプのような金持ちがなぜ庶民の支持を得るのか。そのからくりも、左右から上下へと格差の軸が移動した現在の世界を検証すると、見えてくるだろう。

そもそも、現代の健全な庶民は、政治家になるなどといった邪念を抱かないものだ。政治家は今や、誠実な人、尊敬すべき人が目指す職業ではなく、空気が読めないエリート、怪しげな山師に向いた仕事である。

ポピュリストは政治家であり、庶民の生活とは無縁である。トランプも、ルペンも、ベルルスコーニも大富豪で、しかもそれをひけらかす成り金趣味に染まっている。普段付き合う相手も企業経営者か芸能人だ。

にもかかわらず、なぜ人々はついていくのか。

『ポピュリズム化する世界』(国末憲人・プレジデント社刊)

一つには、ポピュリストがもともと下の世界の住人でなく、上の世界から降りてきた人であるからではないか。

ポピュリストたちがもともと庶民と同じ下の世界にいるとすれば、庶民が従う意味もない。下の仲間内でつるんでいるだけであり、格差をただす夢もない。ポピュリストは、庶民と異なる世界の風を吹き込んでくれるからこそ、歓迎される。

だから、トランプが大金持ちであることは、庶民の支持を受けるうえで何ら問題にならない。むしろ、金持ちだからこそ、存在意義がある。庶民は、自分たちと同じような貧乏人を待ち望んではないのである。

最低限の福祉制度が整った先進国で、本当に食うに困っている庶民は少ない。だから、人々にとって一番の懸念は、収入が少ないことそのものよりも、社会的な地位向上への道が閉ざされていること、そのための方法が見えないこと、そう試みる自信も持ち合わせないことである。将来への展望が閉ざされた庶民に対し、「いや、可能性がある」と行く道を指し示してくれる存在が、トランプやルペン、ベルルスコーニなのだ。