地域やそこに暮らす人に価値ある産業として、農業を世の中に根付かせたいと語る田中進社長。前編(http://president.jp/articles/-/20573)に続いて、「人材」「販路」「ファイナンス」の観点から、農業の可能性について聞いた。

休みがないから、人が辞めるのではない

――農業では人材を確保しにくいとか、人が定着しないといった悩みを耳にします。農業に向いている人材、向いていない人材の特徴はありますか。
田中 進(たなか・すすむ)●株式会社サラダボウル代表取締役。1972年、山梨県中央市生まれ。横浜国立大学経営学部を卒業後、東海銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。約5年勤めた後プルデンシャル生命保険に転じ、また約5年勤務する。その後就農。2004年、株式会社サラダボウルを設立して現職。05年には特定非営利法人農業の学校を設立して理事長に就任する。著書として『ぼくらは農業で幸せに生きる』がある。
サラダボウル>> http://www.salad-bowl.jp/

【田中】人にはそれぞれ、やりたいことや特性があるので、それによって選ぶ業界は異なると思います。ただ、どの組織でも、活躍する人の特徴は共通しているのではないでしょうか。それは農業でも他の産業でも、変わらないと思います。農業だから人が定着しないということはなくて、どの産業でも同じように「定着しない要素」があるから、定着しないのだと思います。

――人が定着する環境を会社として提供していかなければならないのは、どの産業でも同じことだと?

【田中】そうだと思いますよ。人が定着する要素って、たとえば昇進や昇給などでフェアな環境があるとか、将来が見据えられることとか、もちろん賃金体系が整備されていることもひとつでしょう。そうした働く環境や条件だけでなく、ハーズバーグの「動機づけ理論」で提唱されたように、達成感ややりがい、充実感、成長実感なども必要だと思います。

勘違いされやすいのは、農業は働く時間が長いとか、休みがないから、人が辞めるんじゃないかという意見がある。もちろん、長時間労働や無休というのはよくないです。しかし、かといって、休みがないから辞めていくのかというと、それは表面的な理由にすぎません。本質的なことは、そこにいる価値があるかどうか、将来への期待感や安心感があるかどうか、ではないでしょうか。

やはり、現場に力がある会社は、人が定着しやすいと思います。自分たちが日々取り組んでいることが確実に成果に変わる環境では、やりがいや充実感、成長感をすごく感じることができる。さらに個人が承認され、認められる環境がある。その先には、新しいことにチャレンジできる環境がある。一人で始めるよりも、より大きな世界や自分の求める世界がそこにあったら、人は辞めないんじゃないでしょうか。それは農業法人でも同じだと思います。