2015年10月に大筋合意した、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定。貿易や国際投資の自由化と、通商ルールの共通化をはかるこの協定は、一部でさまざまな憶測を呼んだ。いわく、低価格の輸入品が大量に流入してデフレが拡大する、国民皆保険制度の解体や解雇規制の緩和、懲罰的賠償制度の導入といった「日本のアメリカ化」を強いられる、などなど。

30章からなる条文の全体、および2国間文書が公開された今、本当のところはどうなのか。

「端的に言うと、TPP協定の義務を果たすだけなら、日本が新しくやるべきことはそれほどありません。過去のWTO(世界貿易機関)協定や2国間のEPA(経済連携協定)で、日本はすでに高度な自由化を実践しているからです」と言うのは、みずほ総合研究所政策調査部上席主任研究員の菅原淳一氏だ。

輸入額の90%以上を占める鉱工業製品の関税は、TPP以前からほぼすべて撤廃されている。農水産品市場では関税が即時撤廃されるブドウやカニをはじめ、徐々に関税が撤廃されるにつれて輸入は増えるだろうが、鉱工業製品を含む全体で見れば、急激な輸入増をもたらすほど通商環境が変わるわけではない。政府調達の国際入札についても、政令指定都市レベルまで導入済みだ。

医療制度、環境規制や食の安全などの公共の福祉に関連する分野については、日本を含む各国が「留保」という形で条文の適用を外したり、条文そのもので対象から除外していたり。雇用環境についても、外国企業の投資を呼びこむために労働基準を切り下げてはならないことなどが条文で明記されている。

「企業が投資先の国で不平等な扱いを受けたとき、その国の政府を提訴できるISDS関連の条文にも、公共の福祉にかかわる問題については各国の規制権限を確保する但し書きが、各所に配されています」(菅原氏)

つまり、TPPは日本にさほど過激な「構造改革」を義務付けるものではない。「加盟に必要な法改正を集めたTPP関連法案が、わずか11本の法律しか対象としていないことは象徴的です」と菅原氏。知的財産権侵害への罰則も、法案では一部で噂された懲罰的賠償制度ではなく、日本の法体系に沿う「損害補償」型になっている。