もし国民投票で否決されたら内閣は吹っ飛ぶ

【塩田】公明党の憲法問題への基本姿勢や憲法案は、自民党とは相当の開きがあるように感じます。両党は2012年12月と14年12月に連立政権について合意文書を交わしていますが、憲法についてどういう合意が成立していると理解をすればいいですか。

【北側】日本国憲法の改正が現実に可能となったのは、2年前に国民投票法の改正が実現してからです。連立合意は、手続き法が整備されて、議論が具体的にできるようになった段階でしたから、憲法については、一つは憲法審査会で議論を、もう一つは国民の理解を得ながら進めていく、というのがポイントで、それ以上でも以下でもありません。

【塩田】現憲法の特定の条項について、検討するとか改正を目指すといった合意は。

【北側】そんなのはまったくありません。

【塩田】2度目の安倍内閣の発足後、自公両党間で実際に改憲について協議したことは。

【北側】ありませんね。憲法改正の発議は国会で両院の総議員の3分の2の賛成が必要で、政府側に何の権限もありません。発議権は国会の専権事項です。少なくとも野党第一党の理解を得ながら、巻き込んだ形で議論が進み、発議していくことが不可欠と思います。

【塩田】安倍首相は「在任中に憲法改正を成し遂げたい」と発言したこともあります。確かに改憲案発議は国会の専権事項ですが、「安倍政権での憲法改正」という点については。

【北側】安倍首相はこの前も「出口ありきではない」と言っていますよ。いずれにしても、安倍首相一人で決められる話ではありません。

【塩田】それでは、各党の協議も含めて、憲法に関するこれからのスケジュールは。

【北側】「スケジュールありき」ではありません。まずいかに合意形成していくかが大事で、合意形成でも、どこを優先するかです。憲法の条項に触るのは、すべての法規範に大きな影響を与えます。そんな簡単にできるわけではないと思います。

『安倍晋三の憲法戦争』塩田 潮(著)・プレジデント社刊

【塩田】この先の政治日程を見ますと、2019年は統一地方選、次期参院選、消費税増税、2020年は東京オリンピックが控えています。安倍首相の在任中となると、2017~18年で憲法改正に挑戦しなければ難しいと思いますが。

【北側】そんな感じは全然、持っていませんね。これまでも国民投票法の制定、改正、国会の憲法審査会で、当時の民主党と一緒に協議するという枠組みで議論を積み重ね、合意を得つつ進めてきて、今、こういう流れになっているわけです。それと同じく、自公だけでなく、民進党との協議を積み重ねる中で成案をつくっていく手法になると思いますよ。

選挙とか消費税とかオリンピックとか、関係ないんですよ、そんなもん。大半の政党がそれでいこうよとなったら、問題ないですよ、いつやっても。

協議は国会の憲法審査会で行うことになりますが、常設の機関ですから、国会が開いている限りは開かないといけない。そこでどれだけ詰めた議論ができるかだと思いますね。

【塩田】安倍首相の憲法問題に対する取り組み方について、どう受け止めていますか。

【北側】安倍さんもよくわかっていると思いますよ。安倍さん自身、第1次内閣のときと今とはだいぶ違うと思います。非常に現実主義者ですね。できないことはできない。結果として変えていくにはどうすればいいか、そういうことも十分認識していると思います。

【塩田】仮に改憲案の発議ができたとしても、最後に国民投票という壁があります。

【北側】簡単に通るとは申しませんが、発議までに両院の憲法審査会でオープンに議論する。国会での論議だけでなく、専門家の方々の意見も聴取する。そういう過程が相当の期間あるわけです。その中で国民の理解は深まっていくだろうと思います。そのプロセスが大事だと思います。もし国民投票で否決なんていう結果になったら、内閣は吹っ飛ぶと思いますよ。

北側一雄(きたがわ・かずお)
衆議院議員・元国土交通相・現公明党副代表兼憲法調査会長
1953(昭和28)年3月、大阪市生まれ。父親は元衆議院議員の北側義一。創価高校を経て創価大学法学部法学科卒。81年に弁護士登録。90年2月の総選挙に公明党公認で出馬し、初当選(旧大阪5区。96年の総選挙から大阪16区。2009年総選挙での落選をはさんで当選計8回)。2000年に公明党政調会長となる。04年9月から小泉純一郎内閣で国交相兼観光立国担当相。06年9月に公明党幹事長に就任。09年に非議員で副代表となり、12年総選挙で議席回復を果たした。13年から公明党憲法調査会長を務める。
(尾崎三朗=撮影)
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