視点1「知の探索」~ビジネスの種を探ったら、父親の工場にそれがあった


米カリフォルニアやドバイ、サウジアラビアなどからの問い合わせが多い。世界展開を目指し、東大阪の本社工場だけではなく、東京と米シリコンバレーに研究開発拠点を開設準備中。製造もフィリピンにある日系企業の工場へ生産の委託を開始している。

同社がブレークした背景には3つの経営学的な理由があると、私は考えています。第一に、高野氏が好奇心旺盛で、常に「知の探索」を続ける人だったこと。IT分野での事業を探すため、高野氏はあらゆるビジネスの種を探りました。そのときにたまたま、節水ノズルの仕事の話が持ち込まれたのです。

それは、1000分の2ミリ以下の精度を必要とするガスコックを製造する父の技術を知っている高野氏にとって「この品質でこんなに高い値段?」と驚くほど、ちゃちな代物でした。調べてみると節水業界は、有象無象がはびこる「ボロい商売」をしている業界だとわかってきたのです。

ここで「品質の高い節水ノズルを作れば必ず売れる」と実感した高野氏は、定款に一切書いていなかった“ものづくり”を始めます。そして、この挑戦に必要な技術がなんと、すべて父親の工場にあったのです。こう聞くと偶然が重なって事業が生まれたようですが、知の探索を続けたからこそ、このセレンディピティ(ふとした偶然をきっかけに、幸運をつかみ取ること)が生じたといえます。

視点2「コアコンピタンス」~切削加工技術と最先端自動制御旋盤だけを引き継ぐ

第二に高野氏が父の会社の「コアコンピタンス(得意分野)」を見極め、それだけを引き継いだことです。高野氏は父親の事業の中から、切削加工技術と家にあった最先端のNC旋盤(自動制御旋盤)だけを引き継いだのです。

新製品を思索するために、高野氏は父から技術を教わると同時に、他社製品の構造を分析し、特許資料を読みあさり、設計・試作を始めました。しかし、試作しても技術が足りず精度が安定しません。悩むうちに、父親の工場に置いてあったあるNC旋盤が目についたのです。それは世界最速で加工できる最新の機械で、父親が買ったものの操作が難しく、誰も使っていなかったものでした。

メーカーに問い合わせると、「素人が使いこなすには、住み込みでやって1年かかる」と言われたのですが、高野氏は独学で、3カ月で操作を覚えます。その機械でつくった試作品第一号は節水率84%を実現。2009年3月に世界最大規模の水関連の展示会である「メッセベルリン水専門見本市」に出展し、世界中の関係者から大反響を得ます。さらに改良を重ね、17作目となった「バブル90」は節水率90%を超え、モノづくり日本会議主催の「“超”モノづくり部品大賞2009」でグランプリを獲得するのです。

このように、通常の事業承継では企業の資源をまるごと後継者が引き継ぎますが、高野氏のケースは切削加工技術と最先端のNC旋盤だけを引き継ぎました。だからこそ高野氏は開発に専念でき、バブル90の開発に成功したともいえます。

DG・TAKANO3代目社長の高野雅彰氏(左)、早稲田ビジネススクール准教授 入山章栄氏(右)