結果に驚いた私は、すぐにネットで生活保護について調べた。これでは本当に生活に困ってしまう。

そこで発覚した私のミスは、大きく3つ。まず、貯金10万円というのは「貯金がある」と見なされる。どうせ支給が始まるまでに使い切ってしまうのだから、引き出して現金として持っておくべきだった。2つ目のミスは、年金の繰り上げ受給をしていなかったことだ。そして、最大のミスは申請をせずに引き下がってしまったこと。申請権は誰にでもある。審査の結果、生活保護が受けられないことももちろんあるが、それはそれ。申請は何度でもできる。逆に、申請しない限り向こうから助けの手を差し伸べてくることはない。どちらかと言えば、私のように窓口で追い返すことを「裏マニュアル」として推奨している自治体もあるのだという。安易に受給を認めれば、財政は破綻してしまうのだから当然だろう。

数日後、年金の繰り上げ受給の申請を済ませた私は、再度福祉事務所に足を運んだ。言うべきことは完全に調べてある。自宅マンションは借金の返済でなくなること。今住んでいるアパートの家賃は払えないが、引っ越しをする金もないこと。そして、家族に援助を断られたこと。

家族からの援助が受けられないということは、生活保護を受ける際の必須条件ではない。しかし、いかに困っているかを主張するための材料として、一度家族に打診しておくことは重要なのだという。

数日前、私は意を決して数年ぶりに兄に電話をした。

「生活に困っているんだ。離婚して妻もいない。月20万円くらい送ってくれれば、生活保護を受けずにすむのだが」

こう伝えると、「どうしてそんなことに……」としばらく無言になった後、兄は「申し訳ないが、援助はできない。何とか頑張ってくれ」と言った。

それでいい。私も、家族に迷惑をかけたいわけではないのだ。

福祉事務所に入ると、私を見て先日の女性職員は少し驚いたような顔をした。

「どうされました?」
「生活保護の申請に来ました。あのあと、年金の手続きもしましたし、家族に援助も頼んでみましたが、断られてしまいました。たしかに現金は10万円ほどありますが、これは生活保護を受けるまでに必要な金です。早く引っ越しをしないと、このままではホームレスになってしまいます」

「ホームレス」という言葉が効いたのか、いくつかの質問のあと、申請用紙が渡された。そして約2週間後、資産の調査や家庭訪問などの厳正な審査を経て、いよいよ私の生活保護生活がはじまった。