卸売市場を建設することじたいが無理筋の計画

まずは、これまでの経緯を簡単に整理しておこう。

報道・世論が沸騰する真っ只中、東京都の内部聴聞で地下空間を設けた理由について問われた当時の関係職員たちは、それが「汚染再発時の作業スペースだった」と証言した。次いで、小池都知事の采配で9月30日に公表された「自己検証報告書」には、地下空間の必要性を「技術会議が独自に提案した」と記されていた。

ところが、10月7日に開かれた都議会の経済・港湾委員会に呼ばれた岸本良一中央卸売市場長は、「地下空間の必要性を提示したのは、技術会議ではなく都職員の誤りだった」と謝罪した。複数回にわたる技術会議の全体を通して「空間」が議論されたため「技術会議の提案」と記録されてしまったのだという。

10月13日になって、事態はさらに急転する。

基本設計の発注先候補へのヒアリングを目的として開かれた「プロポーザル技術審査委員会・第3回」(2011年2月4日)の議事録で、都はそれまで黒塗りにしてきた部分を開示した。すでに報じられたように、そこには応募企業「日建設計」の主任技術者が「盛り土ではなく地下空間を」と提案する発言記録があったのである。

建築上、排水管などを修理・交換するための作業スペースとして「地下ピット」が設けられることじたいは珍しいことではない。また、植物が重力に反して水を吸い上げるように、物質を介して汚染された地下水が上にのぼってくることは専門家ならだれでも知っている。空間を設けることで直接的な接触も避けられる。しかし、地下空洞は、引火性も強いベンゼンが空気との揮発性混合ガスになって爆発の危険性を孕むことになるともいわれる。

一方の盛り土は、発がん性の高いベンゼンなどが汚染土壌に含まれている場合、それらの有害物質が揮発して建物内に浸入・拡散する危険を防ぐことができる。ただし、有害物質が上がってきた場合、内部聴聞で関係職員が答えたように、対策作業は難しくなる。

つまり、いずれにも長短があり、コストも半端ではない。もともと、土壌汚染が確認されていた豊洲の予定地に、食品の卸売市場を建設することじたいが無理筋の計画だったのである。その経緯については後述する。