「元夫を困らせたい。強制執行されても居座ります」

Kさんのマンションはローン残高1500万で任意売却をすれば1800万円位で売れる物件。つまり売れば全額返済ができるのだ。そこで何とか売却し余剰金は元妻に渡したいとKさんは主張したのだが、元妻は、養育費が滞ったことに激怒し、Kさんの話に耳を傾けようともしない。もちろんマンションの引渡しについても承諾するはずがない。

『離婚とお金 どうなる? 住宅ローン!』著者で住宅ローン問題支援ネット代表の高橋愛子氏の元を訪れ、ポロポロと涙を流しながらこれまでのいきさつを話すKさんは、憔悴しきって精神的にもとても不安定そうに見える。そこで、高橋氏が元妻のところへ行って事情を説明すると、元夫への不満が爆発。

「ずっと養育費を払わない上に、自宅は競売になったようで、裁判所が見に来たり不動産会社が押し寄せたりしているんです!」

元はといえばKさんの浮気が原因だ。彼女の怒りももっともな部分もある。そこで高橋氏は「奥さんは債務者ではないので、家が競売になり、借金が残ればKさんはとても困ります。それにあなたにもお金は入ってきません。ここで売却に協力すれば、引越し代と多少の現金がもらえるのです」と説明したが、元妻はこう言った。

「お金じゃない。あの人を困らせたい。強制執行されても居座ります」

頑なに家を出るのを拒んだのは、自分が損をしてでも、相手を困らせたいという嫌がらせなのであった。

このように元配偶者への恨みで意地になるケースは決して少なくない。そんなときはいつも「感情をとるのか? 理性をとるのか?」と説得するという高橋氏。

元妻は債務者ではないので、家が競売になって困るのは元夫であるKさん。それによって元妻の「感情」は満たされるかもしれないが、お金は入ってこない。元妻がここで売却に協力すれば、引越し代と多少の現金を得ることもできる。つい感情に走りたくなるが、冷静に考えて「理性」を取ることが自分の利益にもなり、その後の人生や生活再建にも有益な選択である。

結局、Kさんのケースは、元妻が感情を抑え、勘定を選択。幸いすぐに1800万円で売却することができ、元妻は売却の余剰金の約200万円をすべてもらい、近くの賃貸マンションに引越しをした。

そして、元夫に養育費の支払いを約束させ、新たに公正証書を作成。競売になり、借金が残り……という最悪のケースは避けられた。