マツダが「SKYACTIV」の進化を図る一連の技術開発の過程で、業界で初と言われる新技術を製品に投入し始めた。これは、ドライバーのステアリング(ハンドル)操作に応じてエンジンの駆動トルクを変化させ、タイヤの接地荷重を最適化することによって、動いている車体の横方向とタテ(前後)方向の加速度(G)をコントロールする、という技術だ。この技術によって、車体の自然でなめらかな走行ができる、言い換えればごく普通のドライバーでも、プロ並みの運転、コーナリングができるという。このマツダの新技術開発の舞台裏をレポートする。(前編/全2回)

マツダはこの新技術で何をしたいのか

マツダが3カ月前、この7月に大幅改良して発売したアクセラに、Gベクタリングコントロールという“車両運動制御技術”を載せた。業界で初めてだという。そのうたい文句によると、これによって「エンジン、トランスミッション、ボディー、シャシーなどを構成するユニットを統合的に制御することで、マツダが標榜する“人馬一体”の走行性能を高める」ということらしい。

自動車に詳しくない人、もっと言えば素人には、なんのことだかさっぱりわからない。一体この技術の何がそんなにありがたいのか? 自動車を運転するのはほとんど“素人”だ。素人にこうした理解困難なことばを売り込んでも、相手の素人は、その値打ちを認めるよりも、むしろとまどう場合のほうが多いだろう。

そもそも、“コントロール”ということばはわかるにしても、“Gベクタリング”という専門用語には全く馴染みがない。これが素人をとまどわせ、理解しにくくしているという推論はそれほど的外れではないと思う。

クルマの動力源であるエンジン本体に投入されている技術の詳しいことはわからなくても、素人は立派にクルマが運転できる。だから、誰でも、この技術のことは理解できなくても一向に痛痒を感じない。マツダ車に限らず、クルマという乗り物は誰でも運転できる。

この技術への関心は、マツダはこの技術で何をしたかったのか、その目的は何か? ということにある。耳慣れない専門用語そのものに魅力を感じてこのアクセラを買う素人はほとんどいないはずだ。マツダ車を購入しようとしている素人がこの技術に関心を持つとしたら、彼(彼女)のもっとも知りたいことは、この業界初の、馴染みのない名称の技術が、マツダ車を運転するユーザーに一体、どんな恩恵をもたらしてくれるのか、ということではないか。

結論はこうだ。

この技術を開発した目的は、素人の誰でもが、つまりクルマを運転する人たちがみな、まるでプロのドライバーのようにクルマを自在に操れるようになること、にある。つまり、運転の上手な人でも、また自信のない人でも、誰でも、メーカーが開発によってクルマに与えた走行の能力を100パーセント引き出して、それも限界値というのではなく、時速40キロあるいは50キロといった日常的な走行シーンでもそのハードウェアの能力を100パーセント引き出して、不安を感じることなく自在に操れるようにする。この思想のもとに開発された技術、ということになる。