中国景気の減速懸念や英国のEU離脱決定、為替の急激な変動など、厳しい経営環境が続く。新しくトップに就任した男たちは、この逆境にどう立ち向かうのか。

成長持続のカギは「駅ソト開発」

就任会見では「原点は11年前の事故」と語った。歴代トップを輩出してきた人事部門が長いが、2005年の福知山線列車事故の際には広報室長を務め、その後は被害者対応の責任者も歴任。穏やかな語り口に込められた「信念」とは。
――どんな経営課題に取り組むか。
西日本旅客鉄道代表取締役社長 来島達夫氏

【来島】民営化から30年。紆余曲折はあったが、昨年最高益を出し、経営的には一つの実績をあげられたと思う。これから常に右肩上がりとはいかないだろうが、持続的な成長を続け、次の世代に引き継ぎたい。そのために安全最優先の企業風土をつくり、社員のモラルや力量を底上げしたい。我々は事故を引き起こした加害企業だ。その覚悟で取り組む。

――「持続的」とは、国鉄時代の放漫経営への反省という意味か。

【来島】それは間違いなくある。国鉄時代は、毎年赤字が増え続け、先行きへの不安があった。その一方、仕事は惰性的になっていた。職場の規律を維持するためには、常に新しい目標を掲げ、達成を目指すことが必要だ。現状維持が目標になれば、来た道を戻ることになってしまう。

――福知山線列車事故には被害者対応の責任者として向き合った。

【来島】何の罪もない方々のお命を奪い、お怪我を負わせ、ご家族の人生や夢を壊してしまった。私自身、すべてのご被害者の皆様にはお目にかかれていない。お一人ずつ気持ちが異なるなかで、鉄道会社として進めていく施策や意思決定もある。すべての方にご納得いただけることばかりではなく、私自身も常に迷いながら対応をさせていただいてきた。その姿勢は今後も変わらない。

――人事畑が長い。事故以前は「日勤教育」など、個人への責任追及が厳しかった。反省はあるか。

【来島】かつてはリスク情報の共有が不十分で、ミスを再発防止につなげきれなかった。今年度からは事故に至ったミスも、悪質性がなければ懲戒処分の対象から外すようにした。ヒューマンエラー(人的ミス)は必ず起きるというのが前提だ。報告文化を根付かせることで、大きな事故に繋がるリスクを事前に把握し、対策を打ちたい。