経費チェックには3つの目的がある

経理担当者が提出された領収書にもとづいて問い合わせをすると、「領収書の宛名は『上様』だって問題ないだろう。税務署でも受け付けられるはずだ」とか、「店の印鑑がなくても税務上認められると聞いたことがある」などと答える社員がいる。たしかに税務署では、「上様」という宛名の領収書でも無効にはならない。また「領収書」と書いていないものでも、実質的に金額を受け取った事実がわかれば認められることはある。

しかし税務署が認めるかどうかではなく、あくまでも経理部が受け入れるかどうかがポイントだ。彼らは確定申告の説明をしている書籍やサイトを読んで、税務署の対応と経理部への対応を混同しているのだ。

社内規定で「現金を精算する時の領収書には、必ず『〇〇株式会社』と社名を入れてもらうこと」と定めてあれば、飲食店のレジで社名を書いてもらうのが面倒だからといって省略はできない。

経理担当者が経費をチェックする目的は、税務署への対応だけにとどまらない。正確でタイムリーな会計処理を行って、間違いのない決算書(貸借対照表、損益計算書など)を作成するためにも確認している。本文の冒頭にあったように細かい確認をするのはそのためである。

また会社の経費は社員にとって他人のお金なので、業務との関連性や公私混同的な取り扱いがないかといったコンプライアンス面からもチェックしている。

万が一、金銭面で不正が起こると、組織が受けるダメージは大きい。決算の信頼性や税務関係にも影響が及びかねない。使い込み、経費の水増しなどがあれば、関係した社員が刑法上の詐欺罪や横領罪などに問われることにもなってしまう。経理規定やルールは、社員が罪に陥ることを予防する機能も担っている。

そういう意味では、経理部は、正確な決算書類を作成するという適正な会計処理面、税額を申告・納税して税務調査にも備える税務対応面、適正な支出を確保するコンプライアンス面という3つの目的から経費支出をチェックしている。この点も頭に入れて経理規定を一度読み込んでいただきたい。

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