――いずれがテリーの正体か。その答えはすでに明らかになりつつある。
ここで、ホンハイとテリーについて、軽くおさらいをしておこう。
テリーが同社を創業したのは1974年だ。最初は台湾の単なる町工場だったホンハイだが、88年に中国広東省に進出。やがて中国の改革開放政策を追い風に、パソコンや携帯電話などを製造するEMS(ハイテク製品の受託生産)業界の巨人となった。
ホンハイの拡大の要因は、中国の安価な人件費をフル活用したコスト競争力と、「軍隊式管理」と呼ばれる厳格な社風がもたらす生産速度だ。一般消費者向けの自社ブランドを持たない一方で、取引先にはアップルやデルのほか、インテル、ソニー、ソフトバンクなどそうそうたる企業名が並ぶ。
加えてM&Aを積極的に活用し、事業の規模と範囲を飛躍的に拡大してきた。2016年4月のシャープ買収後も、マイクロソフトのノキアブランドのフィーチャーフォン事業を3億5000万ドル買い取っている。
「私は松下幸之助氏や盛田昭夫氏を尊敬している」
日本人向けのリップサービスの場で、テリーはそんな言葉を口にする。だが、いまやホンハイの時価総額は日本円で約4.3兆円に達し、企業規模はソニー(約3.8兆円)やパナソニック(約2.3兆円)を軽く上回る。
浮き沈みの激しい電子製品業界で、30年以上も成長を続けるホンハイは奇跡の企業だ。その発展の源泉には、テリーの独裁的経営と、営業のプロである彼一流の「人たらし術」があった。