相手に何を伝えたいのか。目的が明確になれば、文章は簡潔になる。そして、表現はやさしく、接続詞は少なく、過剰な敬語はつつしむ。国語辞典の編集者が培ってきた技術とは──。

「肝の一文」から書き始めてみる

ビジネスの実用文では簡潔な表現が好まれます。簡潔な文章を書くポイントをお教えしましょう。

まず大切なことは、書き始める前の準備です。読み手に最低限伝えるべきところ、すなわち「文章の肝」を考えます。何のために文章を書くのか。実用文で伝えるべき内容は、突き詰めれば一文に集約できます。ここではそれを「肝の一文」と呼びます。たとえば「来週月曜日に会議があります」「納期を延ばしてください」「代金を支払ってください」などです。

こうした「肝の一文」が決まれば、文章を書く目的がはっきりし、情報が整理できます。長い文章を書く場合には「肝の一文」を理解してもらうために言葉を足していくと考えるのがいいでしょう。何の会議があるのか。なぜ納期を延ばすのか。いつまでに支払いが必要なのか。そうした情報を足していくわけです。

日本語学者 国語辞典編纂者 飯間浩明氏●1967年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。同大学院博士課程単位取得。『三省堂国語辞典』編集委員。著書に『「伝わる文章」を書く技術 』(新星出版社・共編)、『辞書を編む』(光文社新書)などがある。

拙著『「伝わる文章」を書く技術』(新星出版社)では、さまざまな実用文を集めて、問題点を指摘しました。それらの実例では、多くの情報を盛り込んだ結果、「文章の肝」がわかりにくいものが少なくありませんでした。

その典型例が「ウィキペディア(Wikipedia)」です。冗長でわかりにくい文章の宝庫となっているのには理由があります。「ウィキペディア」では、不特定多数の書き手が、それぞれの目的で自由に文章を書き足していきます。書き手によって「文章の肝」は異なりますから、編集の過程で一文がどんどん長くなり、結果としてわかりにくくなってしまうのです。

「一文を短く」で苦手意識をほぐす

読み手が一度に受け取れる情報には限界があります。一文が長くなると、主語と述語の関係がねじれたり、主語と述語が2つ以上入った複文になったりして、わかりにくくなります。また主語と述語が大きく離れた文では、読み手はその間に多くの情報を処理しなければならず、ストレスを感じます。

ビジネスにつかう実用文では、読み手にストレスを与えないことが重要です。書くことに苦手意識をもっている人は、まず「一文を短くすること」を意識してみてください。短い文章であれば、何が余計なフレーズなのか、わかりやすいはずです。今回は10個のポイントを実例で示しました。いずれも長い文章ではありませんから、活用しやすいと思います。