相手企業の「ノー」は正当性で完封できる

フロンガス規制の事例からわれわれが学ぶべきことは多い。「持続可能な開発」「持続可能な発展」という言葉が登場して、もう随分になる。先進国ばかりが莫大なエネルギーを消費する時代はすでに終わった。新興国でも工業化が進み、世界はより深刻なエネルギー問題、環境破壊と向き合わなければならない。だから企業は、これまで以上に、自分たちが社会に対していかにして貢献できるかということを考える必要がある。そして、その貢献は、何も無償のものとは限らない。

デュポンのように、結果的に自社に利益があったとしても、フロン規制自体のプロセスは不正に進められたものではない。つまり、企業が行わなければいけないのは、社会全体をよくしながら収益も上がるという提案である。その実現のために、ルール形成をするのだ。環境にいい技術とわかっていながら、市場で受け入れられるか確信がないために投資判断ができない、そんな事例はたくさんある。このときに必要なのは、その技術の環境上のメリットが理解され、受け入れられるように社会を変えることである。

逆に言えば、自社の製品を売りたければ、まずは社会をよりよくするための道筋を考えなければいけないということだ。それを単なる理想論で終わらせるのではなく、自社の製品で理想の社会を実現させようとする。そんなストーリーをつくれるかどうかが問われているのである。

社会がどうあるべきかという大きな理念をまずは提示し、その結果として商品が売れる。社会が変わることで、埋もれていた優れた商品に正当な評価が下されるようにする。そんなふうに理念を明確に打ち出すことは、欧米のグローバル企業が当然のこととして行っている。IT企業にしても、より便利で快適な社会を目指すという目的を掲げ、障壁となる政策と対決する。このような状況は、日本企業にとってはまだ別世界のことのように感じられる。

欧米の企業と真正面からぶつかろうとするならば、ロビー活動を欠いていては、いつまでたっても、まともな勝負にすらならない。国内においても、感度の高い企業であれば、すでにロビー活動に取り組み始めている。企業活動を通じて、社会をよくする提案をできるようになれば、どんな環境にあっても成長を続けられる企業になれるのだ。

※本連載は『ロビイングのバイブル』(藤井俊彦/岩本隆著)の内容に加筆修正を加えたものです。

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