2016年9月16日(金)

「かつサンド」はバーにいる

dancyu 2014年10月号

文・北吉洋一 撮影・伊藤徹也

かつサンドは酒のつまみである。そして、バーによく似合う。ためしに新宿のバーを巡ってみていただきたい。ホテルのオーセンティックなバーからゴールデン街まで、かつサンドが酒を呼び、酒がかつサンドを呼ぶ魔力に酔いしれるから。

〈胃にしみてかつサンドや秋の風〉

と詠んだのは松尾芭蕉ではなく、この私である。場所は新宿京王プラザホテルの「ブリアン」だ。澄みわたった秋のような静かなバーのカウンターには、ハイボールとかつサンド。

ブリアン・BRILLANT●1971年創業、新宿の京王プラザホテルにあるオーセンティックなメインバー「ブリアン」。落ち着いた雰囲気でカクテルなどを楽しめる。

私はここで豁然(かつぜん)と理解した。かつサンドの季語は秋であると。見たまえ、白い柔らかなパンに挟まれた、揚げたての茶色いかつの落ち着きを。白い皿に盛られた四角いサンドイッチの安定感を。あ~しみじみ秋を感じるぞ。

酒場には酒があればいいとする一派がある。腹のふくれる食い物は邪道だという輩である。彼奴(きゃつ)らは知らぬか、卓上のかつサンドの安心感を。

パンに染みたソースと豚脂の旨味が、舌の上で変奏曲を奏でる。この甘さをハイボールやビールなどの炭酸系が心地良く洗い流す。これぞ至福。この愉しみを知らずに、バーで酒ばかり飲んでいる酒呑みは可哀想ですね。ホテルのバーで王道を往くかつサンドをつまんで一献、また一献。本寸法の飲み方と自画自賛。

新宿はいつ歩いても現在普請中という活気がある。特にアルタ裏界隈には昭和30年代から小体ないいバーが並んでいた。大ガードにも近い「カシミール」はバーとしては新しいが、それ以前に西口でスナックとして半世紀の歴史を持つ。かつサンドも実に刺激的である。

まず厚い。豚バラ肉を思いきりよく4センチ厚に切って揚げている。トーストしたパンは小さめ。自家製甘辛ソースはたっぷり。つまり、指先をソース漬けにし、それを舐めとりながら齧るかつサンドなのだ。むっちりした脂身に齧りついて後、唇のソースを気にしつつ飲むウイスキーの旨いこと。存在感溢れるかつサンドには、ちょっと濃い目のハイボールがよく似合う。ちょっと待て、ここはバーボンソーダかな、いや黒ビールも捨て難い。口腔をソースまみれ、脂まみれにさせながら、想いは千々に乱れるのであります。

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北吉 洋一