AIが授業をするようになったら、人間の先生は要らなくなる?

【田原】人工知能が教えてくれるから、人間の先生は要らない?

【神野】いや、教師が要らなくなることはありません。大学受験前の子どもたちは、自分で勉強する動機づけをすることが難しい。そして、勉強に対するモチベーションを湧かせてあげられるのは、いまのところ人だけです。また、学校にクラス制度があるかぎりイジメはなくならず、それに対してアプローチしていけるのも先生だけです。さらにいうと、未来を生き抜く力を身に付けさせるというところも、いまはまだ人間しかできない。人工知能でティーチングのところは効率化できますが、教育の根幹にある仕事は人間が必要だというのが僕の考えです。

【田原】キュビナの開発には、どのくらい時間がかかりました?

【神野】学習塾を始めた1年後の2013年暮れから教育業界が抱える課題を意識し始めて、翌年の夏にはキュビナの開発を始めました。まずデモ版をつくって、試験的に運用するために、15年10月に三軒茶屋に新しい塾をオープン。実際に子どもたちに使ってもらいながら、使いづらいところが出てきたらすぐに開発者が修正する体制をつくって、プロダクトとして磨き上げていきました。正式にリリースしたのは今年の1月です。

32時間で1学年分の数学が学習できる

【田原】教科はどうですか。全教科できるのですか。

田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。若手起業家との対談を収録した『起業のリアル』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【神野】まず数学のコンテンツから始めています。僕が数学好きだったこともありますが、それ以上に大きいのは、いち早く全世界に届けられるから。英語や社会は国によって内容が大きく変わりますが、数学は国ごとの差がほとんどありません。世界展開を見据えると、まずは数学だろうと。もっともシステム自体は教科を問わないので、他の教科のコンテンツも制作中です。他の教科に関しては、英語、理科、社会だけでなく、プログラミング教育も視野に入れています。サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、マスマティクスの頭文字をとって「STEM教育」といい、今後はSTEM教育の重要性が増すと考えているので。

【田原】数学についていうと、実際に子どもたちがキュビナを使えばどれくらい早く学習できるのですか。

【神野】32時間で1学年が終わります。普通はだいたい210~300時間かかりますから、7~10倍のスピードで学習できます。いまの悩みは、早くマスターした生徒が卒業してしまうことですね。続けて高校のコンテンツに入れればいいのですが、開発が間に合っていなくて。

【田原】親の反応はいかがですか。

【神野】料金が少し安めなので保護者から文句は言われていませんが、他の教科を早く作ってほしいという要望はいただいています。

「3カ月でドラクエ日本一になる方法を考えてごらん」

【田原】キュビナの開発は、もともと学習を効率化して、そのぶん未来を学ぶ時間をつくることが目的でした。本来の目的のほうは進んでますか。

【神野】はい。未来を生き抜くために必要な力を伝える授業をようやくできるようになりました。これが一番うれしいです。

【田原】具体的にどんな授業をするのですか。

【神野】45年に現存する99%の職業がなくなるとしたら、子どもたちは自分自身で新しい職業を生み出すしかありません。では、どうすれば新しい職業を生み出せるのか。それには“極める力”が重要だと考えています。何かを極めたら、人々はそれに感動して対価を払ってくれるかもしれない。そこで僕たちの塾では何かを極めるためのアクティブラーニングを行っています。もっと具体的にいうと、まず子どもたちにいま一番好きなことを聞きます。たとえばドラクエでもサッカーでもいい。そして3カ月でその分野で日本一になる方法を考えてもらいます。

【田原】ほお。それで?

【神野】その分野で日本一の人を見つけてきてもらいます。それで自分との差を言語化させます。もちろんいきなり問題の本質にはたどり着けません。たとえば最初は「自分はドラゴンクエストを1日1時間しかやっていない。日本一になるには5時間やらないといけない」というような、ほわっとした方法論しか出てこないのが普通です。そこで実際に毎日5時間やってもらって、1週間後に「日本一になれた? なれていないから、何が問題なのだろう」とまた考えさせていく。これを繰り返すプログラムです。

【田原】ドラゴンクエストというのはゲームですよね。ゲームを極めることが未来を生き抜くことにつながるのですか。

【神野】極める対象はなんだっていいと思っています。たとえばドラクエを極めるときも、世界最高の腕時計をつくるときも、問題を発見して解決するというプロセスは基本的に同じです。そのプロセスを自分で発見して行動していく力を身に付ければ、シンギュラリティがやってきてもたくましく生きていけるはずです。