上手に相手の「言葉の尻」をとって話を転がす

さて、両者の違いはどこにあるのか。

結論からいえば、相手の言葉の尻をとる思考ができるかどうかだ。以前、絵画の即時販売会に潜入したことがある。最初に対応したのは、若い女性勧誘員だった。彼女は「お仕事は何ですか?」と尋ねてきた。

さすがに、「潜入ライターです」とはいえないので、「大手企業の営業職」などとあいまいにして答えた。すると次に、「趣味は何ですか?」と聞くので、「テニスです」と答えた。さらに、「ご自宅にお住まいですか?」と質問をするので、「いいえ、アパートに一人暮らしです」などという話をした。

そんな会話をしながら、画廊を見回ると、女性は「どの絵が気に入りましたか?」と尋ねてきた。私がある1枚のリトグラフを指差すと、その前に椅子が置かれて、商談態勢に入ることになった。

しかし、この女性はあまり話術にたけておらず、「この絵を選ぶなんて、お目が高い」といういささか手垢のついた言葉ばかりを連呼する。そして言葉に詰まると、沈黙する。

この繰り返しに、私はしだいに眠くなってきた。とにかく、すべての話がブチブチと、切れていて、発展しないのだ。本来なら、私の職業が「営業職」ということであれば、「どんな営業なのか?」「会社の場所はどこ?」「社内での人間関係はどうですか?」など、いろいろ聞けるはずなのだが、彼女はそれをしなかった。

そのうちに、ベテランと思しき女性がやってきた。

まず「この絵のどこか良かったのですか?」と聞いてきたので、相手の力量を図るため、わざと絵の本体ではなく「背景部分がいいですね」と意地悪な答えをしてみた。けれど、女性はひるむこともなく、私の返答を受けて、会話をつなげる。

「なるほど、背景のクリーム色の感じが好きなのですね。ということは、性格は穏やかな方ではないですか」

私がひとり暮らしだと知ると、「もし、この絵を飾るならどこがいいですかね?」と言いながら、詳細な部屋の間取りを確認して、「右の壁には何が張ってありますか?」と尋ねてくる。そこにカレンダーなどが張ってあることを伝えると、その反対側には、何があるかを聞いてくる。そして、左の壁に何もないことを知ると、「ここには、この絵を飾れそうですね」と話をつなげていく。