ビールがうまい! そう若者に感じてもらいたい。年々ジリ貧になっているビール市場を「どげんかせんといかん!」とばかりに各社が動きを本格化。営業現場を追った。

取引先に、好きな数を書けと言われたら?

今のビール業界は、どの会社でも海外戦略を練りつつ、一方で地域に根ざしたマーケティングを活発化させている。

このエリアマーケティングを商品にしたのが、キリンの「47都道府県の一番搾り」だ。各都道府県の県民性や食文化、誇りなどをビールの味に落とし込み、個性豊かな47種類の一番搾りが醸造された。8月2日の発売を心待ちにしていたのが、長崎支社の面々だ。

長崎といえば、キリンの前身であるビール会社の設立に尽力したトーマス・グラバーゆかりの地。長崎に造船所を起こした三菱財閥が、当時の麒麟麦酒を創業したこともあり伝統的にキリンが強い。

ところが、ここ数年、他社のビールに押され、苦戦が続いているという。「長崎づくり」は巻き返しの起爆剤。営業にもひと際、力が入った。

厚地峻一はこの長崎支社営業部隊の一員だ。昨春入社し、10月に赴任したばかり。高校時代は東京の強豪サッカー部部長として選手をまとめた。現在は地域貢献のため、県内の公立中学校のサッカー部で指導にあたる。落ち着いた物腰はその影響もあるのだろう。

その日、厚地が向かったのは和風居酒屋「宴家 そく彩」。代表の尾上辰也は親キリン派だが、仕事には確固たる信念がある。それは「おもしろさ」。

「料理はおいしいのがあたり前。『おもしろいね』とお客さまが言うものでなければ、うちで出す意味がありません。ビールも楽しく飲んでいただけるよう、『一番搾り フローズン<生>』や、県内で唯一マイナス3度の『極冷え生』を置いています」(尾上)

厚地には苦い経験がある。祭りをテーマにしたフェアの提案をしたところ、尾上から「おもしろくない」「もっと派手にやろうよ」という手厳しい言葉が返ってきたことがあるのだ。

キリンビールマーケティング九州統括本部 長崎支社営業部の厚地峻一さん(左)と、和風居酒屋 宴家 そく彩の尾上辰也代表(右)。