新しい時代の“大和撫子”として

【茂木】日本の社会の仕組みもあると思いますが、「なでしこジャパン」って素晴らしいチーム名だと思うんです。でも、大和撫子って世の中のイメージとして、言いたいことがあってもぐっとこらえるとか、空気を読んで周りに合わせていい子でかわいくニコニコ笑っている、みたいなイメージがあって……(笑)。それだと澤さんのようなことはできないわけですよ。

【澤】表向きにはニコニコやっていても、絶対陰では言ってますよ(笑)。

【茂木】言ってる、言ってる(笑)。

【澤】私はサッカーのプレー中に修正すべきことがあれば、すぐその場で指摘しますね。そのほうが相手も納得できるし、何よりあとくされがないですから。サッカーに限らず、友人からの相談事や夫との関係でも言いたいことをしっかり伝えるよう心がけています。嫌われたくないと思って言えないという人もいるけれど、私は全員に好かれなくてもいいと思うんです。それに、チームや友人との間に信頼があれば、率直に言っても大丈夫。

【茂木】なでしこのイメージを変えられたら良いですよね。そういうさばさばしたいい“なでしこ”にする。

なでしこジャパン=澤さん=大和撫子ですよね。その場で修正して、あとくされのない信頼関係を築くとか、そういう新しい大和撫子を(笑)。新しいフェミニン像のロールモデルだと思いますけれど。

【澤】なんかあまり意識してやっていないので、特別なことではないのですが……(笑)。そのままの自分なので。

【茂木】無自覚でやっていることが、実はすごく大事なノウハウなのです。その人にとって当たり前のことが、ほかの人にとっては驚きだったりする。よく、ガラスの天井と言うじゃないですか。ガラスの天井って結局自分で自分らしさを勝手に決めてしまって、ここから先は無理っていうことだと思うんです。ですから澤さんみたいな女性が希望なんです。澤さんのおかげで日本女性のイメージが変わってきましたよね。澤さんはニュータイプですよ、日本女性の!

澤 穂希
1978年、東京都生まれ。2011年のワールドカップでは、キャプテンとしてチームを初優勝へと導き、得点王とMVPを獲得。その年度の「FIFA女子最優秀選手」を受賞。オリンピックに4回出場。ワールドカップ6大会連続出場は世界記録。15年末に、現役を引退。
茂木健一郎
脳科学者。1962年、東京都生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。理学博士。第4回小林秀雄賞を受賞した『脳と仮想』(新潮社)、第12回桑原武夫学芸賞を受賞した『今、ここからすべての場所へ』(筑摩書房)のほか、著書多数。

富岡麻美=構成 岡村隆広=撮影 龍生会館=撮影協力