【三浦】少なくとも過去10年くらいまでのデータならば、今はいくらでもパソコンでダウンロードできるのにね。僕がパルコに入って最初にやったのは新所沢パルコの出店マーケティングで、生まれて初めて国勢調査を徹底して読み込んだんです。現象の基礎というのは、やっぱり人口ですよ。高齢者が増えたとか働く女性が増えたとか、そこの数が何人いるかということが一番の基礎なのに、意外に疎かにされていますね。

普通の企業で商品企画やデザイン、マーケティングをする人たちが、日々のデータに追われすぎだということもわかるんですが。僕はたまたまマーケティングのセクションや雑誌の編集に携わっていたから、国勢調査なども見ていたけれど、普通の企業では社員に市場調査の教育をしているんですか?

【勝間】やっていないと思いますよ。私も実際に学んだのは、ほとんどマッキンゼー時代でした。でも、マーケティングリサーチに関しては、非常に良い専門書がいくらでもあるんです。ただ、そういった本が必要だということに気づいて、手が伸びるかどうか。時間的な余裕がないとできないと思いますね。

【三浦】企業にいれば時間のゆとりがないし、それはイコールお金の問題でもあるから、今はますます難しいんじゃないかと思う。

【勝間】目の前の仕事に追われると、そういうところに手が伸びない。今の若い人たちの多くは、本屋にも行かないんですから。別に本人が行きたくないわけじゃなくて、忙しくて行く暇がないんですよ。皆、“人間エクセル”みたいな仕事をたくさんさせられていますからね。紙の報告書を一冊渡されて、「じゃあ、これ、打っといてね」と。

【三浦】今はパソコンですぐにダウンロードできたり、ぱっときれいに表になったりするから、それで仕事もできたような気になるけど、昔は集計用紙に手で書いていたわけですよ。一都三県の市区町村別人口なんて、手書きで国勢調査を写した。でも、写しているうちに、ここは減っていて、ここは増えていると頭に入る。そうやっているうちに分析のフレームができていくし、次のテーマもひらめく。

【勝間】そうした気づきも含めて、基本的にはまず技術だと思うんです。その技術を訓練する機会を、現場でどのくらい与えられているかということが大きいんじゃないかなと。だからこそ、仕事の現場で基礎となる地力を上げるためのトレーニングを、もっと学校教育で行うべきだし、本でも訴えていくべきじゃないかと思うんですよ。

*6:見田宗介(みた・むねすけ)…1937年、東京都生まれ。社会学者。東京大学名誉教授。主著に『価値意識の理論』(弘文堂、1996年改訂新版)ほか多数。

*7:下部構造…マルクス主義用語。政治・法制・イデオロギーなど(上部構造)の土台となる経済の仕組みのこと。

*8:「月刊アクロス」…1977年、パルコが創刊した伝説のマーケティング雑誌。マーケティング業界、広告業界で働く人のバイブルといわれた。三浦氏は80年代に編集長を務め、同誌の黄金時代を築いた。98年休刊。2000年よりウェブに移行。http://www.web-across.com/

*9:家計調査…全国約9000世帯を対象に、家計の収入・支出、貯蓄・負債などを、総務省統計局が毎月調査したもの。http://www.stat.go.jp/data/kakei/

*10:国勢調査…日本国に住むすべての人を対象とする国の最も基本的な調査。5年ごとに実施。最新のものは平成17年(2005年)調査。http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2005/

*11:人口動態…出生・死亡による人口変動(自然動態)と、進学、就職、転勤などの人口移動による変動(社会動態)に基づく人口数・人口構成の変化。

(構成=歌代幸子 脚注=編集部 撮影=佐藤 類)