「毎日毎日、うちに来ていたとき、営業だけではない、うちの店が好きだという気持ちを感じました。しつこいですけど、そのしつこさに負けたというか(笑)。それに、うちの本店がある今里エリアは、ほぼアサヒが独占していて、樽生が他社だと『じゃ、瓶にするわ』と言うお客さんも多い。実験的にアサヒを入れてみたいとは思っていたんです」(中本)

事実、遊津が営業をかけるのは、「自分が好きな店」が基本だ。「ここにアサヒがあったらうれしいな」という素直な気持ちで動く。取りやすいかどうかは二の次だ。そのため、前任者が諦めていた店が取れてしまうということもあるそうだ。

武器は人懐っこく明るいキャラクターと、飲食業界での幅広いつながり。人脈は業務用酒販店を担当していたときに培われたものだ。「大阪市内の繁盛店を多く持っている酒屋さんで、若手が担当するのは僕が初めて。がむしゃらにやっていたら、飲食店オーナーさんたちにかわいがってもらえるようになって。ありがたいですよね」(遊津)。

営業ではその人脈が駆使される。先の「魚屋ひでぞう」のときのように、営業をかけたい店のオーナーと共通の知り合いをフェイスブックなどで探す。その知り合いに頼んで一緒に飲む機会をつくり、打ち解けることが前段階だ。

「飛び込みでいきなり名刺を出すのとは、全然、入りが違う」と遊津は言う。

「心がけているのは、おもろい営業でいること。おもろいというのは、先方の話題についていけて、情報をたくさん持っていること。ミスをしないことも大切です。一度、ミスをしてしまうと、同じ話をしても受け止められ方が変わってしまうので」

NATのメンバーとして成果を上げている遊津だが、最近、このままでいいのかと思うこともある。

「自分の輪の中で結果を出したいと考えていたけれど、それって自分のエゴでもある。これからは会社とつなげることも考えていかないと」

その遊津の座右の銘は「THINK GLOBAL ACT LOCAL」。これはまさに今のビール業界の動きに通じている。どの会社でも海外戦略を練りつつ、一方で地域に根ざしたマーケティングを活発化させている。

(文中敬称略)

アサヒビール社長 平野伸一 「缶好調でも前年比を割ったワケ」

今年上半期のビールの課税出荷量は前年比-0.8%。缶は順調に推移し、3.6%増となりましたが、瓶と樽生の業務用市場が不調です。

原因として考えられるのは、外食産業の中でもパブやレストランの4月から5月の売り上げが落ちていること。その影響が出たのではないかと推察されます。

ただし、下半期にはリオオリンピック開催に向けた「スーパードライ樽生乾杯キャンペーン」を6月21日から2カ月間行っています。これは「スーパードライ」1リットルにつき1円をオリンピック・パラリンピック日本代表選手団などに寄付するという企画です。8月9日現在で、寄付金額はすでに約6300万円にのぼっています。

「スーパードライ」は年間販売箱数1億箱以上を27年間続けています。海外での認知度も急速に上がり、小さな135ml缶をお土産用に買っていく方がいらっしゃるとの話も聞いています。このビールをグローバルブランドに育てていくのが今後の目標です。
(矢木隆一(平野社長)、森本真哉=撮影 PIXTA=写真)
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