噺家
柳家小三治さん

1939年、東京都新宿区生まれ。落語協会顧問。本名は郡山剛藏。都立青山高校を卒業後、19歳で5代目柳家小さんに入門、前座名「小たけ」。63年に二ツ目に昇進し、「さん治」に改名。69年、異例のスピードで真打ちに昇進、10代目柳家小三治を襲名する。古典落語の名人として高い評価を得る一方、落語の導入である「まくら」が長いことでもつとに有名。2014年には重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定。バイクやスキー、俳句など、趣味も多彩で本格的。
 

取材の話をいただいて真っ先に思い浮かんだのは、横浜のホテルニューグランドの中にある「ザ・カフェ」。この店の「仔牛のウィナーシュニッツェル(正式名称は仔牛のウィーン風カツレツ)」は好きでよく食べていますけど、今日、初めて食べた「シーフードドリア」も非常に見事。飲み込むときに、舌の上で溶けながら喉越しになっていくのが素晴らしい。ドリアっていうのはどこにでもあるけど、こういう複雑な味はなかなか食べられない。今日は俺が来るっていうんで、シェフも魂を入れすぎてるんじゃないかな。

私は「東京やなぎ句会」という集まりの一員なんですけど、いつの日からか、12月の俳句会は横浜でやろうということになった。泊まるホテルはいつもニューグランドで、それからは毎年のようにここへ来ています。中庭には季節の花が咲いていたり、緑があったり、その景色の色合いというのが忘れられない。ここは東京の喧騒から逃れて、普段は滅多に吸えない空気を吸っているような気分になる場所なんです。

北海道の旭川にある「三四郎」は、私にとっては隠し砦のような存在。毎年、夏と冬に六花亭というお菓子屋さんが主催する落語会に呼ばれるわけですが、そこでこの店の女将さんと知り合って、以来、足を運ぶようになりました。

私は鯉や鮎などの川魚が苦手なのですが、三四郎の「直焼うなぎ」には驚かされましたね。そんなにすごいことをしてるとは思えないのですが、火加減とタレが素晴らしいんでしょう、蒸さないうなぎでうまいと思ったのは三四郎が初めて。句会のメンバーでお店に行ったときに「騙されたと思って食べてみて」と勧めたら、みんな大喜びしていましたね。

私は普段、家で料理を食べないので、基本的にはすべて外食。お店の選択肢はかなり持ってるほうだと思います。ただ、最近は自分の体との関わりの中で、いわゆる健康食が中心。血圧だ、血糖値だって、そういう面倒なことが多いですからね。あれだけ好きだった寿司もやめましたし、毎日、一食目には必ず野菜を食べることにしています。時代とともに、食べるものもすっかり変わりました。

それでも食べることは好きで、料理がうまければ一日五食の日だってあります。まずけりゃ一食ですけどね。今日はちょっと食べ過ぎたから、散歩してから帰らないと。ドッと倒れちゃうんじゃないかな、心配だよ。