チームで目指す五輪

今の課題は、ピッチに頼らずストライドを伸ばすこと。そのためには、柔軟性のある筋肉を作り、体への負担を減らす必要がある。道下さんはリオに向け、体幹トレーニングとヨガを取り入れた。

「それまで小さい体でストライドを大きくするのは難しいと思っていました。でも『どうしたらできるのか』を考えて動けば、何度でも限界は超えられるんだなって」

もうひとつ、道下さんの限界を押し上げてきたのが、OBRCのメンバーらが立ち上げた「チーム道下」の存在だ。視覚障がい者マラソンは「絆」と呼ばれるロープを走者と伴走者が持って走る。伴走者は道の段差、坂の傾斜などを走者に伝え、導く。いわば、二人三脚の競技。チームの信頼関係、まさに「絆」が、メダル獲得の鍵なのだ。

「絆」と呼ばれるロープを持って伴走者と一緒に走る道下さん。144cmと小柄な体で軽やかに走りながら、時折笑顔がこぼれる。インタビュー中も終始笑顔。「『そのままの私でいい』と言ってくれる人たちと一緒に夢を追いかけられる。今、とても幸せです」

「チーム道下は、一体感が半端ではない。目が見えないことを忘れてしまうほど自然でいられる」と笑う道下さんだが、負けず嫌いの彼女が自然に人を頼れるようになったのは最近のことらしい。

「友人が連れていってくれた働く女性向けの講演で、『30代にもなれば自分のキャパはわかっているのだから、できないことは人に任せ、できることをやる。それが、仕事ができる人だ』という話を聞いて目から鱗が落ちました」

自分にないものに固執しないこと。自分の持ち味を最大限に生かすこと。目標達成やチームワークの秘訣は、ランナーとして道下さんがこれまでやってきた限界を乗り越える方法そのものだった。

「チームでの私の役割は走ること。そこに集中すればいい。ほかはメンバーに任せる。それが役割分担だ」と気づいたとき、周囲への感謝の気持ちが強まった。自分らしさを大切にして開示するようになると、出会いは広がり、リオへのチャンスが舞い込んできた。

「障がい者が自然体で過ごせる社会になってほしい。それには、もっと、知ってもらう必要がある。だからこそ、障がい者と健常者のチームで一緒に金メダルを取りたい。そして、東京パラリンピックにつなげたいんです」

 

中村英二(写真事務所DEN)=撮影