イノベーターのジレンマを克服する「レゴ空想」の手法

話を元に戻そう。マインドストームでユーザーの創作活動から学べる点が多いことに気付いたレゴ社はさらにユーザーの創造的活動を支援する新たな仕組みを導入する。05年に導入されたレゴ・ファクトリー(現在のデザイン・バイ・ミー)がそれだ。この仕組みでは同社が提供するソフトをダウンロードすればパソコン上で自分好みのレゴ作品を組み立てられる。注文すればパソコン上の作品が実際の作品として自宅に配達される仕組みになっている。工場で消費者のパソコンから送られてくるデータをもとにブロックを自動的にパッケージ化、組み立て説明書をつけて注文主のもとに配送する。また製作者のプロフィールと完成された作品はレゴ・ファクトリーの公式サイトに掲載され他の消費者も閲覧でき、気に入れば購入できるようになっている。そうした作品の中から一般向けに商品化されたものもあるという。

マインドストームとレゴ・ファクトリーはユーザーに製品創作の余地をこれまで以上に与えることで顧客満足度を高め、製品・ブロックを拡販することに成功した。こうしたユーザーの創作・顧客化の余地を高める道具や仕組みはツールキットと呼ばれている。ツールキットの他の例としてはネットを通じてパソコン上で簡単に顧客仕様のTシャツや腕時計などをデザインできるシステムを挙げることができる。レゴ社はツールキットによってユーザーとの価値共創に成功したのである。

ただし、ツールキットはあくまでも顧客仕様の製品を実現するマスカスタマイゼーションの道具として使われる場合が多い。ユーザー起点で製品開発を行うためのものではないのである。実際、マインドストームにしてもレゴ・ファクトリーにしても、多種多彩なロボットや作品が生まれた一方で、そこから次代の定番作品が次々と生まれているわけではない。