一人前になるまでは結婚しないと決意

2つの消防署で7年にわたり機関員を務めた彼女は、2002年、新たに女性として初のはしご車操縦の資格を取得し、03年からは、はしご隊の機関員も務めた。また、08年には消防学校の教官に抜てきされ、新採用の若い消防官の指導や、機関員を目指すための研修でも指導に当たった。

輝かしい実績を持つ彼女だが、これまでの20年以上のキャリアの中で、自分の力を過信したことはない。

「一消防官として自分を見たとき、腕力ではやはり男性にはかなわないし、災害現場に残された人は、目の前に男女2人の消防官が来たら、屈強な男性のほうを選ぶでしょう。だからこそ、女性機関員として、自分には何ができるかを常に考えてきました」

女性初の機関員になったときは、「自分には仕事と家庭の両立は無理。一人前になるまでは結婚しない」と決め、職務に没頭した。

【上】疲れたときは、スイーツでリフレッシュ。休日には、都内で人気のスイーツ店を食べ歩き。【下】気の合う仲間と一緒にスノーボード。シーズン中は月2、3回、新潟方面へ行く。温泉と食事も楽しみのひとつにしている。

運転技術や車両機器の知識では誰にも負けないよう努力を重ねた。複数の車両免許や危険物取扱者などの資格を取り、無事故・無違反を全うしてきた。

同じ消防官の男性と結婚したのは、消防学校の教官時代。その後、昇進し、世田谷消防署に異動して現在に至る。

自分の新人時代にくらべると、職場の様子は一変した。さまざまな部署に女性の姿が見られ、女性の機関員も珍しい存在ではなくなってきている。

「女性消防官の数が増えるのは、良いことだと思います。でも……」

それがちょっとした気の緩みにつながることもある、と中村さんは言う。

「災害現場の仕事は、自分のためではなく人のための仕事。やるからには覚悟を持ってほしい。決して途中で投げ出してはならないし、簡単に弱音を吐いてもいけません。女性が増えてきた今だからこそ、第1世代である自分たちの思いをしっかり伝え、再び気を引き締めていきたいですね」

▼中村さんの24時間に密着!

8:00 出勤
8:30~9:00 大交替
9:00~10:00 車両点検・訓練
10:00~12:00 ミーティング・事務処理など
12:00~13:00 昼食
13:00~17:00 訓練・体力錬成
17:00~18:00 夕食
18:00~18:30 日夕点検
18:30~24:00 事務処理など
24:00~6:00 仮眠(仮眠中も出場に備える)
6:00~6:30 起床
6:30~7:00 掃除・車両点検・整備
7:00~8:30 朝食
8:30 大交替・業務終了

【左上から時計回りに】人員確認や点検を行い、前任者の業務を引き継ぐ。/当日の担当業務について、部署内で打ち合わせ。/人命救助に必要不可欠な体力維持のトレーニング。/勤務中は随時、災害現場からの無線報告を処理。

村山嘉昭=撮影 Hair&Make-up=YOSHIE