デザインカンパニーHAデザイン本部の南部泰司総括担当は、プロジェクト内で次のような議論があったと回想する。

「商品は会社の顔。幕が開いたときに、新ブランドを展開する会社の勢いを見せたい、と。ただ、実際に開発が進んでいる商品に対して、どのようなことが可能なのかが問題でした」

「ナノイー」技術は、“登場感”を演出する1つの武器となった。「もともとパナソニックの空気清浄機に入れていたモノをエアコンに入れよう、洗濯機にも入れよう、新商品すべてに搭載しよう、と急遽決まりました。2~3カ月くらいの期間で、駆け足で検討していたので、製造現場の方たちにはご迷惑をおかけしましたが……」(中島氏)。
「ナノイー」技術は、“登場感”を演出する1つの武器となった。「もともとパナソニックの空気清浄機に入れていたモノをエアコンに入れよう、洗濯機にも入れよう、新商品すべてに搭載しよう、と急遽決まりました。2~3カ月くらいの期間で、駆け足で検討していたので、製造現場の方たちにはご迷惑をおかけしましたが……」(中島氏)。

中島たちとの幾度もの議論の末、パナソニックの目指すスタイリッシュなイメージを表現するために、南部は「従来の色に加え、ブライトシルバーやマホガニーレッドなど、全面的なカラー戦略を行う」ことを決めた。さらに同社の技術「ナノイー」(空気中の水分と素子を利用したもので、脱臭や抗菌などの作用がある)を、洗濯機や冷蔵庫にも急遽搭載すること。また、カラー印刷だった梱包材を単色印刷のデザインに変え、「エコ」のキーワードを強調すること……。

マーケティング本部から次々とやってくる要望に、現場は悲鳴を上げた。

「エアコンなんかはすでに秋の商品を生産していました。それを3月になってから色を変える、梱包材を変えます、ですから」と松岡が語る。何しろ梱包材一つを変えるだけでも、落下試験や品質チェック、印刷会社とのやり取りまですべてを最初からやり直さなければならないのだ。事実、松岡はこの間、休みもほとんどなかったという。

「もう走りながら、何もかもを決めていくしかなかったですよ」

そんななか徐々に生じたのが、プロジェクトが一丸となって目標に向かう一体感だった。このときみなが強く意識していたのは、社名変更発表の日の衝撃だったのではないか、と中島は考えている。

「ブランド名の統一だけであれば、ここまでのことはできなかったかもしれません。しかし社名が変わるとなれば、意識も変わる。そこまで本気なんや、と」

いくら現場が混乱しても、社名が変更される日は決して動かせないわけですからね、と、今井もこの言葉を裏づけるように話した。

「ナショナルが消えるだけではなく、松下という社名も消える。そのインパクトは本当にすごかったですから」

もはやすべては明確な意思によって決定されている――そう思えばこそ、彼らは新製品発表のその日に向かって、走り続けるしかなかったのだ。