曲がったニンジンでも売り切ることができる

【弘兼】玉塚さんがローソンに入った10年から始めた「ローソンファーム」という独自の農場運営も、ヘルシー志向に則ったものですか?

【玉塚】それもありますが、ローソンが農業を手がける最大の目的は、その地域で生産性の高い農業のプロトタイプをつくり、農業の活性化をすること。我々は農業という産業の衰退に、供給不安という意味で非常に危機感を持っていました。同時に、製造小売業として、自分たちで生産物を可視化してコントロールできるような状態に持っていきたいと思っていました。

【弘兼】食の安全性を確保するという考えですね。現時点でローソンファームは全国に23カ所。これからどんどん増やしていくのですか?

【玉塚】我々が農業に入り込んでいき、強い農業、例えば競争力のあるレタスをどうつくればいいのか理解することは大切です。ただ、ローソングループが使用しているすべての野菜を賄うことは、たとえ23カ所あっても無理。我々はあくまでも営利企業ですが、その事業の結果として地域活性化に貢献したい。ローソンの強みは1万2000店舗で「売り切る力」があることです。例えば曲がったニンジンができたとしても、我々ならばジュースにすることも、漬物のような加工品にもできる。

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成城石井やユナイテッド・シネマを買収し、グループ内シナジー効果を高める

【弘兼】14年に買収したシネマコンプレックスの「ユナイテッド・シネマ」は16年2月期に23億円という営業利益をたたき出した。これもローソンの持っている、売り切る力を利用したと考えていいですか?

【玉塚】もともとローソンでは本、雑誌を販売しています。さらにCDやDVDを販売している「HMV」もグループ企業。その他、コンサート等のチケット販売を扱うローソンチケットも日本ではトップクラスのシェアを持っています。

【弘兼】広い意味でのエンターテインメントとローソンは密接な関係があった。

【玉塚】映画はエンターテインメントという分野の中で最上位に位置するコンテンツなんです。我々はコンテンツをつくることには手は出さないけど、売り切る力がある。ユナイテッド・シネマには340のスクリーンがあります。こうした出口を持つことで、コンテンツを持つ方々と関係性を強化することができる。

【弘兼】その中心にコンビニである、ローソンがある。

【玉塚】その通りです。映画のチケット販売、コンサートチケット販売は来客者増に繋がります。あるいは非常にお客さまを惹きつけるコンテンツを使ってキャンペーンを行う。

【弘兼】女性客が増えたというだけでなく、コンビニの社会における役割が大きく変わったと感じたのは、11年の東日本大震災のときでした。震災の後、最初に店を開けたのがコンビニ。コンビニの明かりがともったことが、被災者の方々の支えになったと聞いています。今回の熊本・大分地震でもローソンの対応は早かったそうですね。

【玉塚】最初の震度7の地震が起こったのが4月14日でした。ローソン本部からまず200人を派遣しました。土曜日の朝、16日に東京で対策会議を開いていたんですが、テレビ会議では現地のことはわからない。そこで翌日、私も道路が通じていた鹿児島から4時間かけて熊本に入りました。

【弘兼】トップ自らが現地に入った。

【玉塚】被災地の現状、温度感を知ることは大事。トラックを走らせる、航空機で空輸するという指示を出さなければなりませんからね。

【弘兼】熊本は地形的に周囲から物資を運ぶのに渋滞しがちだとか。

【玉塚】今回は東日本大震災のときと違って、製造拠点が壊滅的な被害を受けたわけではありませんでした。周囲には商品があったので、いかに効率的にお店に届けるかが一番のポイントでした。現場の状況を判断してパンを東京から二度空輸しました。

【弘兼】現場でトップが適切な判断ができれば強い。

【玉塚】オーナーの方は泥だらけになって、店を復旧しようとしておられた。そこで感じるものってありますよね。できる限りの加盟店さんを回りました。現場に張り付いている社員も徹夜でした。