>>柴田励司さんからのアドバイス

厳しい雇用情勢が続いている。読者の中には、現にリストラされてしまった、あるいは次は自分かと戦々恐々としている人もいるだろう。しかし、私に言わせれば必要以上に重く考える必要はない。リストラクチャリングの正確な意味はライトサイジング、つまり業況に合わせて会社を正しいサイズに調整することなのである。これは経営の課題であって、社員本人のスキルや能力とは別問題なのだ。

万が一リストラに遭ったとしても、自分のスキルや能力がその会社が目指す姿に合致しなかっただけのことで、新しいことに挑戦するいい機会をもらった、と前向きに考えてみたらどうだろう。

私のキャリアに対する持論は2つある。ひとつは「同じ仕事を3年以上やるな」。同じ仕事を3年も続けていると、脳の中にその仕事を遂行するための最適な回路ができ、楽々こなせるようになる。しかし、そこに落とし穴がある。4年、5年と続けるうち、ほかの仕事をするのが怖くなり、新たなチャレンジを躊躇するようになる。そうなったらキャリアは行き止まりとなり、それ以上伸びない。

これを防ぐには、ひとつの仕事を3年ほど担当し、ある程度こなせるようになったなら、手を挙げて別の場に異動してみることだ。専門職であっても同じこと。たとえ数カ月でもいい、あえて別の仕事に取り組んでみることをお勧めしたい。視点が明らかに広くなる。

もうひとつは、「キャリアは追いかけると逃げていく」ということ。「こんな仕事をしたい」と野心をもって取り組んでも、その通りになることは稀だ。それは売り上げや利益を上げようと闇雲に数字を追いかけると、どこかで破綻が起きてしまうのと同じである。経営の場合、顧客への提供価値を正しく定義し、着実にそれを高めていくことに注力すれば後から数字はついてくる。キャリアに関しても同じで“果実”は後からついてくる。

私自身がまさにそうだった。大学時代は演劇に熱中し、ドラマ制作を希望して某放送局を受けたが、「新人は報道かアナウンサーになるしかない」とわかり、方向転換。その後内定をもらったドラマ制作会社は入社直前になんと内定取り消しとなり、結局内定辞退していた京王プラザホテルに拾ってもらった。最初は皿洗い、ベルボーイ、ウエーター。私のキャリアはそこから始まった。いまの仕事については想像もつかなかった。

シグマクシス代表取締役CEO●倉重英樹
1942年、山口県生まれ。早稲田大学卒業後、日本IBM入社。93年副社長。PwCコンサルティング会長、日本テレコム社長等を経て、RHJインターナショナル・ジャパン会長(兼務)。08年シグマクシスを設立。三菱商事特別顧問。

カルチュア・コンビニエンス・クラブCOO●柴田励司
1962年、東京都生まれ。上智大学卒業後、京王プラザホテル入社。在オランダ日本大使館出向、人事部、マーサー・ジャパン社長、キャドセンター社長を経て、08年より現職。デジタルハリウッド社長を兼務。週1回配信するメルマガ「柴田励司の人事の目」が好評。

(荻野進介=構成 大沢尚芳=撮影)