トルコでは1960年、71年、80年と過去に3回のクーデターが起きていて、国軍が全権を握っている。クーデターの力の裏付けになるのは軍事力であり、トルコ軍は「NATO(北大西洋条約機構)でアメリカに次いで第二の軍事大国」といわれるほど強大な兵力を有する。今回のクーデターは、イスラム化と権限強化を推し進めるエルドアン大統領に対して、軍の一部が反旗を翻したと見られる。

トルコは人口の99%以上がイスラム教徒(大半はスンニ派)でありながら、23年に共和国として誕生して以来、建国の父である初代大統領ムスタファ・ケマル・アタチュルクが打ち出した「世俗主義」を国是としてきた。世俗主義とは公の場に宗教思想を持ち込まないという考え方。わかりやすく言うなら政教分離の原則だ。軍人アタチュルクの系譜を受け継ぐトルコの国軍は「世俗主義の守護者」を自認している。ゆえにイスラム色の強い政権のときにはしばしば政治介入し、時にクーデターを引き起こしてきた。

エルドアン大統領は民主的な選挙で圧倒的な支持を受けて2003年に首相に選出された。デノミ(通貨単位の変更)と財政健全化で高インフレを収束させ、構造改革で世界からの投資を呼び込み、通貨危機後のトルコ経済を立て直した。当初は非の打ちどころがないリーダーぶりで、エジプトに代わる中東の要、と期待され欧米の評判も上々だった。だが首相3期目に入ったあたりから言論統制などの強権化が目立つようになる。14年にトルコ初の直接選挙で大統領に就任すると、ロシアのプーチン大統領のように手下を首相に据えて大統領権限を強化し、独裁色を強めてきた。そしてもう一つがイスラム回帰だ。反イスラム的な運動家や学者を投獄し、最近では大学構内にモスクを建設してイスラム教育を制度化したり、アルコール販売を禁止したりするなど、イスラム色の強い政策を推し進めてきた。民主主義や世俗主義に逆行するエルドアン大統領のこうした政治姿勢に対して内圧が徐々に高まってきて、クーデターという形で噴出したのだろう。