ディープラーニングとは何か?

【田原】難しい言葉なので基本からお聞きします。ディープラーニングって、ずばり何ですか。

【岡田】ディープラーニング以前の学習からお話ししましょう。たとえばコンピュータに人間の顔を検出させようとすれば、かつては「ここに目があります」「ここに鼻があります」というように人間がコンピュータに情報を一個一個与えなければいけませんでした。しかし、これには限界があって、顔のような形状をした木があれば人間の顔だと認識してしまうのです。逆もあります。猫を認識させるために猫の目や鼻、ひげをコンピュータに覚えさせても、ちょっと引きの絵になってしっぽまで映っていたら、もう猫として認識できない。それが従来の人工知能の学習でした。

ABEJAが利用する業務提携先、さくらインターネットのサーバールームにて

【田原】ディープラーニングはどう違うのですか。

【岡田】ディープラーニングでコンピュータに猫を認識させるときは、情報を一個一個与えるのではなく、猫の画像をひたすら入れます。そうするとコンピュータが「どうやら耳があるらしい」とか、「しっぽが生えているものもあるぞ」というように、勝手に猫の特徴を見つけ始めて、学習していきます。これは人間が猫を認識するのと同じです。人間は脳の神経回路を使って猫という存在を認識していきますが、ディープラーニングではコンピュータにも同じような回路をつくって認識させます。

【田原】どうしてディープラーニングができるようになったのですか。

【岡田】周辺技術の発達が大きいですね。クラウドと呼ばれるサーバー技術の発達によって、コンピュータのリソース(能力)を有効に使うことができるようになりましたから。

【田原】岡田さんは、ディープラーニングのどこがすごいと思ったのですか。

【岡田】ディープラーニングは予想外の進化でした。インターネットも革新的でしたが、じつはインターネットの誕生前と誕生後でできることは大きく変わっていません。スピードが速くなるといった変化が中心で、いわば予定調和の進化でした。一方、ディープラーニングでは、それまでできなかったことが突然できるようになった。これが本当の革命じゃないかと。

「ABEJA=ミツバチ」

【田原】シリコンバレーで衝撃を受けた岡田さんは、帰国してABEJAを立ち上げます。世界を変えるならそのままシリコンバレーで起業してもよかったと思うけど、どうして日本なのですか。

【岡田】世界で勝負するには向こうのスタンダードに合わせたほうがいいとよく言われますよね。でも、私はそう思いません。私の好きな数学者である岡潔先生は、日本人の美術的感性があればこそできることもあると言っています。おそらくそれは事業も同じ。日本人独特の感性を使って事業をやったほうが世界で戦えるのではないかと思いました。

【田原】日本人独特の感性って、どういうものですか。わびとかさびとか?

【岡田】おっしゃるとおりです。アメリカは歴史が浅いですが、日本は数千年の歴史を経て美術的な感性を磨いてきました。そうした感性を発揮することによって見えてくるものがあると思うのです。たとえば世界から注目されている日本企業として、ヤクルトのような微生物系の会社が挙げられます。微生物系の研究は辛抱強く研究を続ける必要があって、日本人に向いている。同じように、私たちも日本人の感性を活かして世界に挑みたいなと。

【田原】起業したとき仲間は何人いらしたのですか。

【岡田】私を入れて3人です。

【田原】ABEJAという名前はどういう意味でしょう。

【岡田】スペイン語で、ミツバチという意味です。ミツバチがいなくなると、植物が受粉できなくなり、植物を食べる動物もいなくなってしまう。私たちも同じように、自分たちがいなくなると世界が困ってしまうくらいに重要な会社になりたいという思いを込めて名づけました。