イノベーションの質より行動を起こせるかどうかに着目する

賢明なる読者ならおわかりだと思います。私はイノベーションが起きない原因を、数の不足や質の悪さといったアイデアの問題や、目利きの不在、杜撰な選別プロセスといった体制の不備には求めません。なぜなら、ほんの些細なアイデアを眠らせずに次につなげられるか、という「行動」に着目するからです。

経営学の世界にはイノベーションマネジメントという分野があって、イノベーションの確率をいかに高め、いかに成功させるかという研究がさかんに行われています。でも、そのやり方をいくら真面目に追求しても、イノベーションによる組織や社会の活性化につながらないのではないでしょうか。

イノベーションの質を高める理論を探すのは一旦やめて、一人ひとりの人間がいかにイノベーションを起こす行動を取れるかを考えませんか。私たちは、先のB商品をつくろうとした営業マンや、アフリカの子供たちへの具体的な支援活動を会社に提案した人が取った、現状に甘んじず、まずは一歩踏み出してみる行動を「イノベーション行動」と呼び、それをいくつかの面から掘り下げ、「科学」にまで昇華させようという研究プロジェクトを国際大学のシンクタンクであるGLOCOM(グローバル・コミュニケーション・センター)で立ち上げました。名称は「イノベーション行動科学」です。

コンピュータでイノベーションが起きる確率を決めるとします。関係者一人ひとりがイノベーション行動を取る確率を0.1%に設定するのか1%に設定するのかで、全体の確率が大きく変わってきます。企業の中でも社会においても、その確率をできるだけ高めるにはどうしたらいいか。それを研究するのがイノベーション行動科学です。

イノベーターやアントレプレナー、社会起業家になれるような人は放っておいていい。どんな困難が立ちはだかろうと、次々にイノベーションを起こしていける人たちだからです。私は、私たちのような「普通の人」でもイノベーションは起こせるということを、研究を通じて明らかにしたいのです。