食事は抜いておき空腹で臨むべし

ただしプレゼンの成否は、その後の「Q&A」までわかりません。無事に話し終えても「Q&A」で手が挙がらなければ失敗です。海外では滅多にありませんが、日本では最初の一人の手が挙がらないことがある。20秒も沈黙が続くとしらけます。もし10秒たっても手が挙がらないときは、「先日の講演会でこのようなご質問があったのでお答えします」と短く話します。すると「呼び水」になって、会場から質問が出てきます。空気を操るのも大事なことです。

プレゼン前の体調管理も仕事の一環です。私は人前で話すときには朝食や昼食は食べないようにしています。人間は満腹になると油断します。反対に空腹であれば、神経が過敏になり、集中力が高まる。無理強いはしませんが、参考にしてください。

私はプレゼンに臨むとき、一人でも多くの人に笑顔で帰ってもらいたいと願っています。独りよがりに精緻なロジックを準備するのではなく、どうすれば聞き手に楽しんでもらえるかを考えます。聞き手からエネルギーをいただかなくては、いいプレゼンはできません。その方向さえ間違えなければ、自然といい内容になると思いますよ。

▼5人を「定点観測」して空気をつかむ

出席者のなかで「最大公約数」といえるタイプを5人程度決め、その人たちに向けて話す。(図1参照)

⇒出席者が何人でも、つねに「1対1」のつもりで話せる!

▼「演歌歌手」のように場内を歩き回る

演台に留まらず、マイクを持って場内を歩き回る。池上さんには「野村の新沼謙治」というニックネームも。(図2参照)

⇒視線が動くことで、聞き手の顔が話し手に向く!

▼英語で喋るように日本語で話す

【日本語】「話しました」 → (何となく)通じる
【英語】「spoke」 → Who spoke what to whom?(誰が、誰に、何を話したの?)と聞き返されてしまう

⇒「私はAさんに日本経済の見通しについて話しました」主語と目的語が明確だと、聞き手の反応が見違える!
野村ホールディングス シニア・コミュニケーションズ・オフィサー 池上浩一
1979年一橋大学社会学部卒業、野村証券入社。ロンドン大学に留学後、外国人投資家向けのアナリストに。2000年IR室長、06年7月から現職。著書に『これからの10年で成長するリーディング業界を予測するルール』。
(構成=國貞文隆 撮影=永井 浩)
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