「少年時代」という名の永遠

さて、最後に「これぞ夏休み!」というべき一冊をご紹介しておこう。『教科書名短篇 -少年時代』(中央公論新社編集、中公文庫)。タイトルから想像がつくとおり、中学国語教科書から戦後文学・翻訳小説の名作を厳選した短編集である。ヘッセ、魯迅から永井龍男、井上靖、安岡章太郎、三浦哲郎らによる12の短篇を収録したものだ。

『教科書名短篇 -少年時代』(中央公論新社編/中央公論新社)

テーマも「少年時代」ということで、読んでいるだけで甘酸っぱい気分になれるはず。涼しくなった夕暮れにでも読んでみれば、永遠に続きそうに思えたあのころの夏の情景が頭に浮かぶかもしれない(なお、歴史・時代小説を中心とした「人間の情景」篇も刊行されている)。

仕事柄、「本を読む人が減りましたが、どう思われますか?」というようなことをよく聞かれる。が、本音をいえばその発想が好きではない。たしかに読者人口の減少は、数字にも表れているだろう。けれど、そこにばかり注目し、「売れない売れない」と騒ぎ立てることになんの意味があるのかと、強い抵抗を感じるのである。

そんな暇があるのなら、むしろ注目すべきは「それでも読者がいる」という現実を意識することだ。本が好きな人は確実にいるし、だったら、そちらに注目したほうがよほど建設的だと考えるのだ。それに、誰の心のなかにも、きっと少年時代の読書の記憶が残っているはずだ。紙の匂い、ページをめくる指の感触などとともに。

この夏は休日を利用して、気になった本を読んでみてはいかがだろう? しばらく忘れかけていた読書の楽しみを、思い出すことができるかもしれない。

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