自動車評論家の清水和夫によれば、ニュルブルクリンクでのレース活動は、実際にトヨタのクルマづくり全体に影響を及ぼしているという。

「これまでトヨタのクルマづくりで重視されてきたのは、キャビンの広さとカタログ燃費でした。2000年以降は、特に乗り心地、ハンドリング、気持ちよく楽しく走るといった領域が軽視されてきた。しかし、トヨタのなかには実はクルマ好きも多い。近年はマイナーチェンジでもボディ剛性に手を入れるなど、変化が見られます。章男社長の就任以後は彼らに光が当たり始め、優先順位がかわったという印象です」

C-HR 開発責任者 古場博之氏

豊田は自身の考える「チーフエンジニア像」について、「“トヨタが作っているんだ”ではなく、“自分はこういうクルマを作りたい”という思いを実現させるような人になってもらいたい」と話す。

「お客様第一というのは言い訳でしょ、と社内では言っている。作り手の情熱がなければ、新しいものは生まれない。『お客さんが言っていましたから』という作り方は、『お客様のために』という言葉をはき違えているんじゃないか。僕らは『いいクルマ』の答えを持っているわけではない。それを決めるのは市場と歴史です。それなら最後のラインオフの瞬間まで、みんなで戦おうよ、と。戦って、戦って、それは正解ではないかもしれないけれど、正解に近いところまで行こうとするのが、情熱を持った作り手なんじゃないか」

もちろん開発には数値目標が必ず付いて回る。だが、最近は「乗ってみて笑顔になれるか」という指標が重視されてきた、というのがチーフエンジニアの古場の実感である。

「だからこそ、データありきではなく、まずは自分がどうしたいかを開発の中で表現できるようになってきた。その雰囲気はこの活動の成果だと思います」