戦争とビジネスが同じである理由

2冊目は、布施哲氏による『米軍と人民解放軍 米国防総省の対中戦略』(講談社現代新書)である。布施氏は、米シンクタンクCSBAの客員研究員を務めた、異色のテレビ朝日記者である。CSBAは、国防副長官を筆頭に多くの国防総省幹部を送り込んでいるばかりか、歴代国防長官の知恵袋を務めるシンクタンクであり、布施氏の実力の程が伺える。実際、布施氏は、40代の安全保障研究者のフロント&トップランナーとして、業界では知られている。

『米軍と人民解放軍 米国防総省の対中戦略』(講談社現代新書)

本書は、中国がどのような方向性で軍拡を行っており、それが米国や日本にとって致命傷になりかねないことを、わかりやすく指摘している。特に圧巻なのは、最終章で描かれている2030年の日中戦争である。そこで布施氏は、取材力によって獲得した米軍内部の演習資料と公開資料を縦横に結びつけ、装備と発想が“ガラパゴス化”した自衛隊が、中国軍に翻弄される様がリアルに描写されている。

特に海上自衛隊のミサイル弾薬が2週間でほぼ払底する事実や、航空自衛隊戦闘機の通信システムが旧式で他国と演習が行えない事実が紹介されているが、これらの事実こそ、如何に安保法制を巡る左右の議論が愚劣であるかを示唆している。本書は正式な“推薦図書”ではないが、自衛隊幹部の間で愛読者が多く、密かなロングセラーとなっている。このことは、いかに布施氏の指摘が正鵠を得ているかの証左だろう。

戦争というものは、保守派が言うように力によって抑止できるものでもなければ、左派が言うように慎重になれば回避できるものでもない。それは、戦争が人間同士の営みだからである。ほとんどの戦争は、ちょっとした判断ミスや誤解を契機に発生し、予想外の連続によって大規模化し、思わぬゴールへ落着するものである。そして、それはビジネス上のアクシデントと同じである。

今年にも起こるかもしれない日中戦争に備えるためにも、日々のビジネスで勝ちにいくためにも、上記2冊の書籍は、深刻だが、豊かで有意義な視点を与えてくれるのである。

【関連記事】
作家が選んだ「夏休み、あなたが変わる名著19冊」
オバマの戦略、外交の流儀…「根本がわかる」道案内
大きな潮流の変化を鷲掴みにする文献
ビジネスに生かす好奇心の鍛え方
危機にもぶれない! 強かな経営理念を養う指南書