福田赳夫との角福戦争

【田原】もう1つ、田中角栄といえば福田赳夫と角福戦争をやった。石原さんは福田赳夫のほうの清和会だった。石原さんから見て、この2人はどうですか。

【石原】福田赳夫なんて問題にならないね。つまらないよ。

【田原】だって福田赳夫の子分じゃないですか。

【石原】いや、子分じゃないですよ。あの人は僕が角さんとやり合ったものだから変に評価してくれて、閣僚にしてくれたけど。

【田原】亀井静香がおもしろいことを言ってました。「田中派というのは軍団で、金もくれる。当選回数があったら、ちゃんと役員や大臣にしてくれる。福田派は、単なるサロンだ」と。

【石原】そうだろうね。僕は福田さんから金をもらったことは一度もない。

【田原】もらっていないの?

【石原】絶対にもらっていない。何人かで福田邸にいったとき、福田さんにみんなに小遣いだといって100万円ずつくれたんですよ。僕は、もらう筋がないから断った。そうしたらおべっか使いの藤尾正行(元文部大臣)が怒って、「なんでもらわないんだ。お前の分を取ってくる」という。「それはやめてくれ」と言って先に帰ったよ。

それからダッカのハイジャックがあったときも福田さんは逃げちゃった。あのとき夜中の2時に閣僚緊急会議があって、僕は「ミュンヘンオリンピックの事件の後、日本もSWATみたいなものをつくったと聞いたけど、本当ならダッカに送り込んだらどうですか」と提案したんだ。すると、官房長官の園田直さんが「ここだけの話だが、実は特別の公務員が20人いくことになっている」と答えで、福田さんも「ほう、ほう」と相槌を打っている。ところが、これはぜんぶウソで、ダッカに行ったのは犯人の面わりに言った公安の刑事3人だけだった。それで「人間の命は地球より重い」といって犯人の要求を飲んだ。みんな騙されたんだよ。

【田原】当時、田中派は汚れたハト、福田派はきれいなタカという言い方があったけど、どうでした?

【石原】そうなの? いや、福田さんはタカじゃなかったな。ただのハトだよ。悪いけど、僕は福田さんに敬意を感じたことはないな。

安倍晋三のいいところはどこ?

【田原】最後に聞きます。石原さんがいまの田中角栄ブームに火をつけたわけだけど、いまどうしてこんなに田中角栄がウケるんだろう?

【石原】ノスタルジーじゃないですか。日本の政治が狭くなってきたからね。安倍君は安倍君でよくやっているけど、民進党の岡田克也っていうのは何ですか。財閥の息子にしちゃシャビーで暗い。あれじゃダメだよ。

【田原】安倍晋三はどうですか。清和会だから石原さんの後輩になる。彼は自分のことを頭がいいと思っていなくて、人の意見をわりによく聞く。これが彼の一番いいところだと思う。

【石原】私の主治医で日本一の救急病院をつくった先生がいるんですが、あるときその人が自衛隊の看護体制はなってないというんですよ。話を聞いてもっともだと思ったから、まず菅義偉君に紹介したの。そうしたら内閣官房の参与になってね。このまえも安倍君がその先生から15分、話を聞いたそうです。これは本気でいろいろ考えている証拠でね。そういう意味では篤実な男だと思いますよ。