先輩からの思わぬ一言

技術スタッフの仕事は個人宅やその建設現場、顧客企業のもとへ行き、センサーなどを取り付けることだ。機器を使ってセンサーのデータをバージョンアップしたり、時には複雑な配線工事を行ったりする。

当初、横田さんは運転免許もまだ取得しておらず、教習所に通う日々を続けていた。だが、ある現場に出た帰り道、先輩から思わぬ一言があった。

「『横田さんはさっきの現場で何をしてきたかわかってる?』と聞かれたんです。あの頃はただ先輩の後をついていって、仕事の様子を見ているだけでした。仕事のできる先輩に甘えて、それでいいと思っている自分がいたんですね。でも、そう言われて、このままじゃいけないと思い直しました。一人で現場に出ても、仕事ができるようにならないといけない。以来、現場に行くたびに『自分にやらせてください』と言うようになったんです」

「次の点検もあなたに」と言われるのがうれしくて

2015年4月、工事を担当する工事班の班長になった横田さん。「班長から係長、課長へと昇進していってほしい」と上司も期待する。

また、彼女はその先輩女性スタッフから、仕事に対する「負けん気」のような気持ちも学んだという。これまで女性がいなかった建設工事の現場では時折、率直にこう言われることがある。

「女の人で本当に大丈夫か?」

「先輩はたとえそう言われても、全くひるまずにお客さまと話を続けていました。それで、わかったんです。仕事をきちんと終えれば、そうした声も必ず収まっていくものなんですね」

彼女がいまもよく覚えているのは、仕事を教えてくれたこの先輩が転職して社を去ったときのことである。

「もう横田さんは大丈夫。これまでずっと一緒にやってきたじゃん」

こう言われて現場に送り出されたその日は、彼女が一人前の技術職として認められた日でもあったに違いない。