利益にこだわる姿勢の欠如

事業悪化の要因を探るために、144億円もの当期純損失を計上した2015年12月期の業績をみてみましょう。同期の連結損益計算書およびそれに係る注記事項を読むと、問題点は以下の3つに集約できそうです。

1.商品力の低下

一般的に、会社にとって在庫は収益を生んでくれるものです。それを売ることで売上がたち、利益がでるからです。ところが、中には不良在庫もあります。人気がなく定価では売れない商品のことです。こうした在庫は最終的に値引きなどをするわけですが、原価よりも低い値段を付けなければ売れない場合があります。こうした不良在庫については会計上、評価損を計上します。

2015年12月期に計上されたニッセンHDの商品評価損はなんと18億円もあります。売ったとしても18億円の損という訳です。消費者が買いたくなるような商品を開発しなかった、あるいはコストをかけ過ぎたことが原因だと考えられます。

結局、値引きは利益率の低下を招き、業績悪化に拍車をかけることとなりました。

2.高価値・高額商品の欠如

商売上、ただ安く売るだけでなく、価格を上げても商品に価値を感じてもらうことが大事です。ブランドショップはイメージを高めることで商品を高値で売ることに成功し、その分多くの利益を確保しています。企業が存続しさらに発展していくためには十分な利益が必要です。

ところがニッセンHDの場合はただ安さに走っており、比較的高価な商品層を用意していません。売価が安いためどうしても薄利になりがちです。同業で「ベルメゾン」などを展開する千趣会と比較しても、ニッセンHDの利益率は圧倒的に低いです。2015年12月期では、千趣会の粗利率が45%のところ、ニッセンHDは35%と10%も低く、2014年12月期でも10%以上の差をつけられています。

例えば、千趣会はマーケティング分析に力を入れており、商品開発力に強みがあります。通販事業では商品の約77%がオリジナルです。2015年にこれまでノンブランドで販売していた商品を集約し、ベルメゾンでしか買えない高付加価値オリジナルブランドとして、「ベルメゾンデイズ」という新ブランドも立ち上げています。売上や知名度だけでなく、企画から製造小売りまで一貫して行うSPA型商品開発による収益性の向上を目指しているのです。このように、ニッセンもニッセンでしか買えないような高価値・高額な商品層を用意するなどして客単価を上げることが必要だと考えられます。

3.不採算事業の存在

ニッセンHDは2016年2月までに大型家具事業から撤退をしています。廉価な家具を売りにしていたのですが、実はずっと赤字を垂れ流していました。スケールメリットを生かせるニトリやイケアといった強力な競合には勝てなかったのでしょう。

事業の撤退にかかるコストとして39億円、人員のリストラにかかるコストとして8億円、その他コストと合わせると48億円が事業整理損として特別損失に計上されています。

以上の3点から、ニッセンHDには利益にこだわる姿勢が欠如しているように考えられます。むやみに事業を広げるだけでなく、商品群や価格帯などを見直しきちんと利益を出すことに注力すべきです。セブン&アイ・ホールディングスのグループ企業ということもあり、ただちに倒産することはないかもしれませんが、今こそ抜本的な営業改革が求められているのです。

秦 美佐子(はた・みさこ)
公認会計士
早稲田大学政治経済学部卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格し、優成監査法人勤務を経て独立。在職中に製造業、サービス業、小売業、不動産業など、さまざまな業種の会社の監査に従事する。上場準備企業や倒産企業の監査を通して、飛び交う情報に翻弄されずに会社の実力を見極めるためには有価証券報告書の読解が必要不可欠だと感じ、独立後に『「本当にいい会社」が一目でわかる有価証券報告書の読み方』(プレジデント社)を執筆。現在は会計コンサルのかたわら講演や執筆も行っている。他の著書に『ディズニー魔法の会計』(中経出版)などがある。2016年7月23、30日に早稲田大学オープンカレッジ中野校で会計講座「ディズニーの事例に学ぶ! 決算書の読み方と経営分析」を開講。