イマドキの部下に上司が負けてしまうかもしれない「穴」の話

以前、「スキルの可視化」というテーマで開催したセミナーをプロデュースしていた時のことです。セミナーに登壇する企業の人事担当者が、興味深い発言をしていました。

人事制度が今ほど整備されていなかった時代に、年功序列的に昇格させてしまった人の中には、後で精査すると、そのポジションに求められるスキルが備わっていない人も少なくなかったというのです。いわゆる“スキルに穴がある”状態です。その人が若手だった時代にはしっかりとした育成プランがなかったとか、他の企業からの中途入社だからなど、事情はいろいろです。

精査するとポロポロと穴が見つかってしまい、さて、どう埋めればいいのかと思案した、という話でした。

さらに驚くべきは(その企業に限った話で、一般性があるとは言えないとお断りしておきます)、穴があるタイプの上司を細かく見ていくと、その足りないスキルが必要なパフォーマンスを出せない要因になっている、またはチーム全体を停滞させる原因になっているというのです。

けれども、それはポジションに求められるスキルを整理し、すべての従業員のスキルを可視化することで初めて分かった話であって、今までは「どうしてあのチームはパフォーマンスが上がらないのだろう」と思っていただけだと、その人事担当者は言っていました。

似たような話は別の企業でもあります。その企業では、上司になって伸び悩む人の多くは、上司になる前、つまり若手時代に身につけておかなければならない能力を身に付け損なっていて、結果としてそれが足かせになり伸びを欠いてしまっている、という発見があったそうです。

かつては「地位が人を作る」と言って、多少のことは目をつぶっても、その地位に就かせれば、それなりにふさわしい仕事ができるように人は成長するはずと思われていました。しかし、そうでもないケースがあったということです。

“できると思われているが、実はできない人”が見破られる時代

企業の人事評価システムに関する仕事に携わっている関係で、似たような事例は山のように見ています。例えば、評価は高いのにスキルがとても低く、年齢も高いという人は、今回のコラムで例に挙げている“穴のある人材”です。このタイプの人材は、当初、スキルは低くても、別の能力がずば抜けている(コミニケーション能力が異常に高いなど)のだろうと推測していたのですが、個人を特定していくと、実はそうでもない。

ただ、経験がある(いわゆる地位が人を作った例になるようです)ので、なんとなくは仕事ができる。そして、部下もその意を汲んで、なんとなく仕事を進めていく。結果的になんとなく成果を出し、なんとなく評価されている。

つまり、“なんとなく”の連鎖が結果オーライを作り出していた、幸運な例であることがわかったのです。しかし一度苦境に陥ってしまうと、いままで効力を発揮していた“なんとなく力”が通用しなくなる。ただ、実際にそういう場面に出くわすまでは、その評価が高い人に能力が不足していることに誰一人として気がつかない、という状態。これは、多くの企業でごく一般的です。

ただ、そういう見えなかった時代はそろそろ終わりを告げそうです。様々な人事データを分析することで、できると思われていた人が、実はできなかったと暴かれる時代が、すぐそこまでやってきているのです。