仕事、家庭生活、お金、親子関係……、さまざまなお悩みに、110冊以上の著作を誇る作家の本田健さんと、PRESIDENT WOMAN Onlineの連載「WOMAN千夜一夜物語」でおなじみのコラムニスト河崎環さんが回答する人生相談、今回は「家事の省力化と子供への影響」に関するご相談です。

【今回のご相談】
我が家は共働きで、夫婦そろって激務です。そのため、全自動洗濯乾燥機、食洗機、お掃除ロボットなど、便利家電をフル活用しています。食事は週末に1週間分を作り置きして、冷凍し、平日はそれを解凍して使っています。夫のワイシャツはクリーニングに出し、私はシワにならない素材の服しか着ないので、アイロンがけもほとんどしません。ここまでして、やっと生活が回るか回らないかギリギリのところなので仕方ないとは思うのですが、息子、娘が「家事」というものを知らずに大人になってしまうのではないかと、とても心配です。
至れり尽くせりの便利家電。母親世代が行っていた家事を思い返すと、「ラクできて大人はいいけど、子供が将来困るんじゃないかな……」という複雑な気持ちも湧いてきます。(イラスト=伊野孝行)

理想より現実。実践的な家事を家族で楽しむ

【河崎環さんの回答】

私は自分が共働きの家庭に育ったので思うのですが、皆さん「家事」なるものの「あるべき姿」とは、かつて昭和の専業主婦が日々執り行っていたレベルだと頭から信じていませんか? あれは時代と社会構造が生んだ一種の鬼っ子アートですから。できすぎなんです。実践レベルじゃありません。だからホラ、「◯◯式料理法」とか「片付け法」とかの形式主義が生まれ、主婦雑誌で読者による家事の研究が熱心に行なわれていたりしていたでしょう?

そもそも家事とは、人間が一人生きていたら必ず生まれる、日々身の回りの物事を整える作業です。自分が汚したものを洗う、空間を掃除する、自分に食事を食べさせる、などなど。「正しい家事」なんて存在しないのですよ。暮らしの空間の新陳代謝を維持することが究極の目的なので、それを誰がどういう形で行おうとも、どういうレベルであろうとも、その家庭で行われている「家事」は真っ当な「家事」なのです。

共働きで夫婦そろって激務の家庭で、便利家電をフル活用して家事が回っているなんて、素晴らしいことですよ! でも、どれだけ全自動と言ったって、洗濯物を畳んでクローゼットにしまうのは人力ですし、食器も人が片付けているはず。作り置きのために、週末にご自分で料理されているはず。掃除ロボットにも限界がありますから、なんだかんだ人間が手を動かしてきれいにするところも多く、ご夫婦が家事を一切していないわけではないのですよね。

家電を使ったら人間の労働が全廃されるわけではない。また、家族として暮らしている限り、親がしていることを子どもは見ているのです。家事というものを教えたいと思うのなら、いきなり梅干しの漬け方やシルク混ブラウスの型崩れしない洗い方などハードルの高いものを教えるのではなく、まずは「洗濯機・食洗機・お掃除ロボットのざっくりした使い方」や、「簡単な食事の作り置きの仕方」、「クリーニングの出し方」を教えることから始めればいいのです。十分な家事ですよね。きっと、お子さんにもとっつきやすいはずです。折しもそろそろ夏休み、学校が緩やかになって時間ができたら、お子さんに少しずつ家事を教え、任せていってもいいかもしれませんね。

女性回答者プロフィール:河崎環(かわさき・たまき)
フリーライター/コラムニスト。1973年京都生まれ、神奈川育ち。乙女座B型。執筆歴15年。分野は教育・子育て、グローバル政治経済、デザインその他の雑食性。 Webメディア、新聞雑誌、テレビ・ラジオなどにて執筆・出演多数、政府広報誌や行政白書にも参加する。好物は美味いものと美しいもの、刺さる言葉の数々。悩みは加齢に伴うオッサン化問題。