あくまでも解雇は会社にとって最後の最後の手段。そこで会社が解雇の前に行ってくるのが賃金カットや人事異動をともなう事業の見直しだ。このうち賃金カットは、多額の住宅ローンを抱え、教育費も膨らむ中高年のビジネスマンを、日々の生活の維持すら困難な状況に追い込む可能性が高い。

「賃金カットは『労働条件の不利益変更』に当たり、基本的に従業員の同意がない限り認められない。基本給だけでなく、就業規則や労働協約で定められた家族手当や通勤手当などの諸手当も対象になる」と元榮弁護士は指摘する。もし一方的にカットされても、黙ったままでいると、合意したとみなされかねないので注意が必要だ。

ただし、「賃金の引き下げを行うことに高度な合理性があれば、就業規則などを変更して賃金カットすることが許容されることもありえる」と谷社労士はいう。合理性の有無は、従業員が受ける不利益の程度、変更の必要性の程度や内容、労働組合との交渉の経緯などを総合的に考慮して判断される。

ここで気になる問題が、組合に入っていない従業員に対する扱い。「もし全従業員の過半数以上が加入する組合が賃金の減額変更を認めたら、非組合員もその合意に引っ張られる。つまり、個別の同意なしに一律賃金カットされることになる」と元榮弁護士はいう。

また、手っ取り早い経費削減策として、「仕事の進み具合が遅いのは君の能力のせいなのだから、いままでの残業代を一切支払わない」などと難癖をつけてくることがあるかもしれない。「もちろん、これも時間外労働に対する割増賃金の支払いを定めた労働基準法に違反する。まず、タイムカードなどの証拠を確保してから労働基準監督署に訴えて、是正勧告を出してもらうようにしたらいい」と谷社労士は助言する。

ただし、未払いの残業代については時効が認められていて、過去2年分までしか請求できない。ちなみに時給3000円の従業員が毎月20時間サービス残業していたとすると、2年間の未払い残業代は割増分を含めて180万円になる。もし、裁判になって口頭弁論終了までに支払いがなければ、未払い分と同額の「付加金」が加算される。

先にも触れたようにリストラ策のなかには人事異動もある。たとえば生産ラインの従業員を営業に回すものが「配置転換」だ。気心の知れた仲間のいる職場を離れ、未経験の仕事に携わるのには大きな抵抗を感じるもの。

しかし、「個別の労働契約によって研究職で採用した場合などを除き、就業規則に異動について定めがあれば、拒否できない」と元榮弁護士はいう。就業規則では「会社は業務上必要がある場合は、従業員の就業する場所または従事する業務の変更を命じることがある」としていることが多い。自社の就業規則に目を通しておこう。