ちょうど40歳になる頃だった。フリーのライターとなり、自分で出版社を訪ねたり、友人からの紹介で少しずつ仕事を受けている。安定した収入があるわけではなく、ゼロの月に泣くことも。年収はほぼ半減したが、「後悔はない」と晴れやかに言う。

「フリーになって大きいのは、自分の責任で価値判断できるようになったこと。所属する会社や組織に左右されず、自分が納得してできる仕事を選べるのは幸せですね」

大手出版社にいたときは、そこで働く女性たちのつらさも肌で感じた。高学歴で志を持ってマスコミに入っても、組織の歯車として課せられた仕事に追われ、競争社会で疲弊していくように見える。買い物依存症やうつ病に陥る人も少なくなかった。

「私はいわゆる“富裕女子”をすごく近くで見てきた“貧困女子”なんです。どちらが良い悪いじゃないけど、私は普通の感覚を忘れたくないし、人と競うのも好きじゃない。お金がないと言いながらも、今の生き方は心地いいんでしょうね」

遠回りしたようでも、本当にやりたいことを見つけるために時間が必要だった。出会った友人たちは、派遣から次の目標に向けて頑張っている人、正社員の職を離れて大学院で学び直す人もいる。世の中にはいろんな生き方があり、未知の世界が広がっている――その好奇心を満たしてくれるからこそ、自分は今の仕事を選んだのかも、と伊藤さんは思う。

撮影=吉澤健太