ロールモデル不在がもたらす悲劇

【グレイ】多くの家庭で、父親は支配的だったり、あるいはパートナーに見向きもしなかったりということがあると思います。そして、そんな父親を見て育った男の子は「母親は本当にハッピーではなかった。パートナーにあんな態度で接するような男性にはなりたくない」と思うでしょう。そして男性性を否定して女性化してしまうということが起こります。

「男は火星から、女は金星からやってきた」のキャッチフレーズで、世界的大ベストセラーとなった『ベスト・パートナーになるために』(ジョン・グレイ著、三笠書房)。

【塚越】では、男性はどうしたらいいのでしょう。

【グレイ】まず「男性らしさとは何だろう」と考えることです。そして、好ましい男性性を表現しながら、女性に対しても思いやりのある言動をとりつつも、自分が女性化してしまわないやり方を模索するのです。日本にはそのロールモデルが少ないと言えるでしょう。先ほどの話のように、世界的にも男性の草食化の傾向が見られますが、日本は特に顕著だと思います。

【塚越】草食化の原因には、身近によいロールモデルがいないという理由もあったんですね。

【グレイ】どんな男性でも“いい男”になりたいという気持ちがあります。しかし、パワフルで自信に満ちていながら女性に対して親切で、敬意をもって接するというロールモデルがいないのです。一方、女性も、支配的な父親に対して心を閉ざし、服従的に生きてきた母親を見て育った場合は、「あんなふうにはなりたくない、不幸な人生を送りたくない」と思うわけです。そして、自分が強い男性のように主体的な人生を送るのだ、と無意識のうちに考えるのです。実際に女性はどんどん強くなりました。

【塚越】女性が男性化しているとも言えるのでしょうか。

【グレイ】それもあります。例えばアメリカでは、大学を卒業する女性の数は男性の2倍になっています。また、男女間の給与格差がよく取りざたされていますが、35歳以下に限って言うと女性の方が男性よりも稼いでいます。35歳以下の子どものいない女性は、男性よりも20%も多く稼いでいます。彼女たちは働き者で、仕事もでき、スーパースターのような存在なのです。でも有史以来、男性が狩りにいって、家族のために食べ物を持って帰ってくる時代が長く続いてきました。そこでは、女性は男性に頼る存在だったのです。ですから、女性が自立して自分より多く稼ぐという状況では、男性は「自分の仕事がなくなってしまった」と感じるわけです。