空気を読んじゃだめ。思ったことはしっかりと発言する

だれかの「当たり前」は、ほかのだれかの「大発見」かもしれない。そこを掘りあてるのがダイバーシティの効用だ。花島さんはオーストラリアに赴任してまもなく、R&Dセンターの助言を得て問題を解決したことがあった。その経験が後のブレークスルーにつながる。

「工場内でアイデアが出なければ外部に意見を求めればいいと、R&Dセンターの人を巻き込んで解決策を探りました。設備の構造を原理まで踏み込んで検討することで、改造の方向性が見えてきました」

その結果、廃棄量は一気に数%にまで削減でき、コストダウンと資源の有効活用に貢献することができた。

「空気を読んじゃだめ。思ったことはしっかりと発言することがチームワークを強固にするんです」と花島さん。同僚からは「派遣されて一層アグレッシブになったね」と感心されるようになったという。

メールや電話で済まさず、直接顔と顔を合わせて会話する

同じ交流プログラムで2013年にガーナに1年間赴任した芝勇人さんは、出産と育児をくり返しては職場復帰する女性の姿に衝撃を受けた。

調達グループ調達部 物品・サービス調達課 ストラテジックバイヤー 芝勇人さん。高校の部活は応援団。炎天下の甲子園で、母校・智辯学園和歌山の優勝を支えた。「自分への優先順位を上げてもらうには直接顔と顔を合わせて会話すること」

「男女ほぼ同数の職場で、課長も部長も女性。部長は産休と育休で半年以上いなくて、それでも当たり前に仕事はまわっていました」

西アフリカと中央アフリカを管轄するネスレの拠点がガーナにあり、そこではガーナ人のほか、トルコ人、アゼルバイジャン人、ナイジェリア人、コートジボワール人、セネガル人、そしてブルキナファソ人などが働いていた。まさに多様性そのものの職場環境だ。その中で芝さんは原料調達を担当した。

「ミーティングに来ない、時間の約束を守らない、ということはよくありました。彼らには彼らの優先順位があるのです。いかに相手に動いてもらうかに心を砕きました」

メールや電話で済まさず、直接顔と顔を合わせて会話すること。日本のお土産“消せるボールペン”は有効なコミュニケーションツールとなった。

「ナイジェリアの工場で使う原料は、国際価格より高い値段で取引されていたのですが、同僚と知恵を出し合って、最終的に国際価格まで下げることができました」

周囲を巻き込んで目標を達成していく仕事の醍醐味(だいごみ)を経験した芝さんは、一回り大きく成長して帰国した。