オジサンに通じる文書は誰にでも通じる

このように、曖昧な言葉を避けて具体的な数字を用いて断言する、ふわっとした感情を分解して事実の積み重ねにする、思考のプロセスをダラダラと説明しないよう箇条書きにするなど、「数字と事実」で表現することを心がける。すると、性別にかかわらず、年代や文化など自分と共通項のないどんな相手にも伝わりやすい書類になっていることに気づかされます。

「女性は言語化する能力が高いので、同じ概念をさまざまに言い換えることができる。例えば、幸せ、ハッピー、わくわく感……といった表現が同じ資料内で登場したら、女性ならそこは瞬時にひも付けて同じことを言っていると理解できますが、男性にとっては単語のブレと映り、一気に混乱してしまうのです。女性的な豊かな発想を、曖昧さをなくして男性上司に理解させることができれば、男性上司はあとはまい進するだけ。最高のパートナーシップになりえるのですよ」

さて、その次の段階として、上司の好むボキャブラリーに寄せていくと、伝わりやすさがさらにアップ!

「男性の思考基準とは勝ち負けであることが多い。40代までなら野球やサッカーなどのスポーツ、50代以上ならゴルフや戦国武将など、なるべく勝負事に例えてあげるのです。また、松下幸之助さんや孫正義さん、柳井正さんなど、有名な成功者の事例や言葉を引用して、成功イメージをわかりやすく提示するのもいいでしょう」

確かに、男性はスポーツや歴史、偉大な起業家の話などが大好きですよね。

「さらにそこで、競合他社や異業種をリサーチして成功事例とリスクを双方出すなど、勝つためのデータをそろえて見せてあげると、『おまえなら信頼できる、任せた!』となりやすいんですよ」

でも、女性ならではの情緒の機微を忘れず、丁寧な表現をしたいもの。

「そんなときは、注意が必要。相手を思いやっているつもりで、実は自分がいい人に見られたいだけなのではないかと自問してみて。単なる“いい人”では生産性の高い人材にはなれないのです」“丁寧さや気遣いはいいこと”と信じ込むのではなく、生産的であることを常に念頭におき、コミュニケーションのさじ加減をすることが必要です。

女性と男性の思考の違いが、言葉の使いかたにこれほど顕著に反映されるとは、驚きです。ですが、自分とは性別も年代も違う、異なる背景や考えを持つ男性上司を攻略できる企画とは、普遍的に受け入れられる価値を持つ企画でもあるということ。言葉や思考の変換スイッチをオンにして、どんどん“伝わる”企画書を出していきたいものですね。

日野佳恵子
ハー・ストーリィ代表取締役。島根県生まれ。タウン誌の編集長、広告代理店のプランナーを経て結婚、出産、専業主婦を経験。その後、起業。一貫して男女の購買行動の違いに着目したマーケティングを実践。著書に『女性のためのもっと上手な話し方』などがある。

撮影=田中真光