バンクーバー五輪フィギュアスケート銅メダルの高橋大輔選手ら多くのアスリートの食事を担当した管理栄養士の石川三知さんは「ビジネスマンが食を充実させれば、それは絶対に自分の心身への自信になる」と太鼓判を押す。

「高橋選手も以前はカツカレーが大好きで、毎日でもOKと言っていたのですが、一緒に食事を見直した3カ月後には『肉体的に驚くほど変化を感じたのはもちろん、心構えも含めて精神的に変化を感じた。練習をしてもバテない、疲労回復が早くなる、もしも疲労感を強く感じたときにもどうにかできると思えるようになった』と話していました。バンクーバー五輪で引退を考えていた彼は、本番で『まだまだやれる』と確信したそうです」

新時代の社員食堂を活用すれば、数カ月後にはメダル級のビジネスアスリートに変身できるかもしれない。

社員食堂が重要なのは、実はこうした明るい側面の裏側、社員食堂こそが「鬱の温床」となる危険性も高いからだ。

臨床心理士の植木さんは語る。

「一緒に食事をする相手がいないことを怖がる『ランチメイト症候群』や、最近では一人でないと食事ができない『便所飯』など、食事をストレスに感じている人は実はすごく多い。実際に、私の患者さんで出社拒否の人たちは、食事のことを話す人が多いんです。『仕事は好きなんだけど、ほかがね……』と。だから、個食でも、同僚と食べてもさまになるような配置の最近の社員食堂は、精神的負担をぐんと減らしてくれるはず。少なくとも、出社率が上がる、というのはほぼ確実に言えると思うんです」

「それに、仕事をしているときって、脳の一部しか使ってないんで脳がこる。でもそこで食事を摂ると味覚、嗅覚、さらには手も使うとか、脳全体を使うんです。いい脳ストレッチになりますよね」

食は元気の源。今、企業は、直接的な数値や方法論だけではなく、同時に人間の基本である身体性にこそ、翻ってさらにステイブルで強靭な組織へと変わる鍵があると気づき始めたのかもしれない。