「筋を通したい」気持ちからフリーに

その外資系広告代理店には、まさに中村さんのやりたい仕事があった。同社の最重要クライアントは、IBM。社内は外国人ばかりで、まるで国内で留学しているかのようだった。

「やりたかったIT分野の仕事でした。そこで3年半勉強したことが、今の自分の原型になっています」

仕事は楽しかったが、中村さんは海外の本社の方針と意見を異にすることになる。折り合えず28歳でその広告代理店を退社。しかし、彼の実力を買っていたいくつかの会社から「個人でマーケティングの仕事をやらないか」「立場が変わったら一緒に仕事をしたいと思っていたんです」と、オファーが集まった。

「辞めた広告代理店の日本法人の会長からも『うちでは受けられない仕事をやってくれないか』と電話をもらいました。嬉しかったですね。それで2年くらい、フリーでやっていたんです」

その心に信念と志は消えていなかった。しかしそれを起業して実現するために、中村さんにはまだ少し回り道が用意されていた。電機メーカー、広告代理店、と勤めてきた中村さんは次に、思わぬ形で飲食店経営に関わることになる。

森 綾(もり・あや)
大阪府大阪市生まれ。スポーツニッポン新聞大阪本社の新聞記者を経てFM802開局時の編成・広報・宣伝のプロデュースを手がける。92年に上京して独立、女性誌を中心にルポ、エッセイ、コラムなどを多数連載。俳優、タレント、作家、アスリート、経営者など様々な分野で活躍する著名人、のべ2000人以上のインタビュー経験をもつ。著書には女性の生き方に関するものが多い。近著は『一流の女(ひと)が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など。http://moriaya.jimdo.com/

ヒダキトモコ
写真家、日本舞台写真家協会会員。幼少期を米国ボストンで過ごす。会社員を経て写真家に転身。現在各種雑誌で表紙・グラビアを撮影中。各種舞台・音楽祭のオフィシャルカメラマン、CD/DVDジャケット写真、アーティスト写真等を担当。また企業広告、ビジネスパーソンの撮影も多数。好きなたべものはお寿司。http://hidaki.weebly.com/

撮影=ヒダキ トモコ